「鳥貴族をつくった男」の知られざる悪戦苦闘 脱チェーン店理論で作りあげた儲けの仕組み

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大倉はそれまで焼き鳥を32グラム程度で提供していたが、さらに儲けを削って60グラムで提供することに決めた。原価率は35%から48%にハネ上がり利益率は大幅に下がったが、三流立地で家賃が安いのが救いだった。また、儲けが減る分は自分の給料を減らせばよいと考えた。

こうして大倉は「鳥貴族 俊徳道店」の創業1年後の1986年に150円、250円、350円の3本立て均一料金と決別し、ビールも含め「全品250円(税抜)均一」に業態転換、勝負を懸けた。大倉は飲料・フードメニューすべてのマージンミックスで少しでも利益を確保すればよいと、腹をくくった。結果的に大倉のこの決断が倒産寸前の鳥貴族を救ったのである。

大倉が原価率を48%まで上げた国産新鮮鶏肉の焼き鳥は、質・量ともに顧客に満足感を与えた。「全品250円均一」――低価格・高品質の鳥貴族の評判は顧客から顧客へ口コミで広がり、リピーターや新規の客が押し寄せた。大倉はマージンミックスを導入することで、“成功の扉”を開いたのだ。

大倉はこのときの成功体験から、ライバル店や同業他社をいっさい意識せずに「お客様歓喜だけを追求」し、鳥貴族のビジネスモデルを創ってきた。参考にするのはコンビニエンスストア(CVS)とか、低価格イタリアンレストランのサイゼリヤなどである。

ただし、原価率が非常に高く薄利多売のビジネスモデルであったので、店舗数が100店舗を超すまでは規模の経済が働かず、悪戦苦闘したという。挫折してもおかしくはなかった。

27年間「280円均一料金」を守る

大倉は1989年の消費税3%導入を契機に、「全品280円均一」に値上げした。それから、キリンビールが1998年に発泡酒「麒麟淡麗〈生〉」を新発売、飲食店向けに「樽生」を発売すると、いち早く「淡麗〈生〉700ml」(現在はサントリー「金麦生樽700ml」)を飲料メニューに導入し、看板メニューにした。そして2002年には一般の3~4倍もある名物焼き鳥「貴族焼(むね・もも。ネギ付き1本90グラム=1人前2本)」を開発し、キラーコンテンツとした。鳥貴族は開店前から行列のできる超繁盛店に「化けた」のである。

1989年以来消費税は5%、8%と引き上げられたが、大倉は今日まで27年間「280円均一料金」を守ってきた。

参考までにいえば、現在、鳥貴族の食材&飲料の原価率は35%である。1985年の創業期と比べると規模の経済が働き、約13%ダウンしてきたという。そして、以下は2016年11月時点(490店舗台)で鳥貴族が「280円均一」で一晩に販売した全店の飲料の数量である。日本の飲食店チェーンの中ではトップクラスではないだろうか。

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