「悪いトランプ」を封じ込めるカギは、民間部門が握っている。米国の雇用が増え続けるには、企業がアニマル・スピリッツに目覚め、投資活動に積極的になることで、生産性の向上がもたらされる必要があるからだ。
「悪いトランプ」の劇薬に手を伸ばす誘惑が高まるのは、トランプ政権が苦境に陥った時だろう。移民や貿易赤字相手国は、難局から目をそらすためのスケープゴートになる。雇用情勢が悪化したとき、もしくは、支持率が低迷するなど、政権運営が厳しい局面を迎えたときに、「悪いトランプ」は顔を出しやすくなる。
しかし、現在の米国では、それほど雇用の伸びしろは大きくない。失業率が低水準にあるなど、労働市場は完全雇用に近い。ここから景気が加速しようにも、生産性の上昇が伴わなければ、賃金コストの上昇がインフレ圧力の高まりに直結する。長期金利が急騰し、景気が腰折れる事態になりかねない。
「良いトランプ」が実弾を伴うか
「良いトランプ」への期待には、企業の前向きな行動に火をつける効果がある。全米独立事業者協会(NFIB)によれば、トランプ氏の当選を受けた2016年12月の中小企業楽観度指数は、12年ぶりの高水準に急上昇した。前月からの上昇幅は、実に1980年7月以来の大きさだった。半年以内に投資を増やすと答えた中小企業の割合は、そうした計画を持たない中小企業を3割程度上回っている。
もっとも、企業マインドの改善が、本格的に広がっているとは言い切れない。主に大企業を対象としたビジネス・ラウンドテーブルの調査では、2016年第4四半期における最高経営責任者(CEO)の景況感が、前期から微増にとどまった。半年以内の投資計画についても、CEOの意欲に目立った変化はない。
企業が本格的に前向きになるためには、「良いトランプ」が具体的な政策として肉付けされていく必要がある。実弾をともなわない期待だけでは、企業を前向きにさせる力に限界がある。
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