ドナルド・トランプ氏は大統領当選が決まった後も、経済にとって好ましい政策=「良いトランプ」と、好ましくない政策=「悪いトランプ」が混在する姿は変わっていない。軸足が米国の雇用に置かれている点を含め、良くも悪くも「変わらないトランプ」を覚悟する必要がありそうだ。
たとえ就任演説の格調が高かったとしても、「就任すればトランプ氏は大統領らしくなる」という期待は、持たないほうがよいだろう。そうした期待は、これまでも裏切られてきた。
「フェンスではない。壁だ。(中略)われわれは壁を建設する」
2017年1月11日、当選後初の記者会見で、こうトランプ氏は述べた。大統領選挙において、メキシコ国境に壁を建築するという方針は、トランプ氏の厳格な移民対策を象徴する存在だった。あまり当選後は話題になってこなかったが、決してトランプ氏の念頭から消えていたわけではなかった。実際には、トランプ陣営と米議会との間で、壁の建設費用を巡る調整が進行していることが明らかになっている。
「悪いトランプ」は消えない
壁を巡るトランプ氏の発言は、「大統領になればトランプ氏は変わるはず」という期待の儚(はかな)さを如実に表すものとなった。トランプ氏当選後にみられた市場の好反応は、トランプ氏の変化を前提としていた。経済に好ましくない政策=「悪いトランプ」は、選挙が終われば用済みになるのではないか。そして、減税やインフラ投資、さらには規制緩和といった、経済に好ましい政策=「良いトランプ」だけが出てくるのではないか。そうした期待が、米国の株価を押し上げてきた。
しかし、1月11日の記者会見でそうした期待は失望に変わった。「悪いトランプ」は、消えていなかったからだ。
米国にとって、移民は大切な労働力だ。移民を締め出せば、米国内の生産コストは上昇する。不法移民に限っても、民間雇用の5%を占めているのが現実である。経済成長への貢献を考えれば、不法移民が合法的に米国に滞在できる道を開き、存分に活躍できるようにする政策が望ましい。
移民政策だけではない。中国、メキシコ、そして、日本との貿易不均衡を問題視した保護主義的な発言や、一部のメディアに対する対決的な姿勢など、あたかも選挙戦当時のトランプ氏が蘇ったかのような記者会見だった。
トランプ氏が、ぶれているわけではない。トランプ氏が提示する政策のメニューは、今も選挙期間中も変わらない。「悪いトランプ」が消える、というのは、あくまでも周囲が作り上げた期待である。公約してきた政策は、いずれもトランプ氏の頭の中に残っている。そう素直に受け止めるべきだろう。
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