「変わらないトランプ」は意外にわかりやすい 目的の達成がすべて、手段にはこだわらない

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いよいよ発足するトランプ政権だが、その離陸期には3つの落とし穴がある。

第1に、政策の優先順位である。期待を実弾で裏付けるために、まずトランプ政権が目指すべきは、「良いトランプ」、すなわち、拡張的な財政政策の実現だろう。ところがトランプ政権と共和党議会は、まず最初にオバマケアの廃止に取り組もうとしている。廃止後の代替案が明確でないなど、思いのほか審議は長引きかねない。いくらオバマケアの廃止が共和党の宿願だとはいえ、「良いトランプ」が遅れるリスクは軽視できない。

政権に強力な調整役が見当たらない

第2は、政権のマネジメントである。トランプ氏による政権人事には、まとめ役となる強力な調整役が見当たらない。トランプ氏を頂点とした、並列的な組織であるようにうかがえる。それぞれがボスであるトランプ氏への近さを競い、互いに足を引っ張りあったり、誰もがトランプ氏に異論をはさむことを恐れたりする展開が懸念される。

第3は、トランプ氏の驕りだ。トランプ氏は、自らが諸外国との交渉の先頭に立つ意気込みを見せている。「交渉術なら誰にも負けない」という自負があるからだろうが、大統領の仕事は多岐にわたる。現場にこだわる余裕は、本来ならば存在しないはずだ。まして、個別の交渉に必要な情報を、事細かに大統領が把握することは難しい。自らを過信するあまり、有能な部下を集め、適切に仕事を任せることができなければ、政権運営は混乱しやすくなる。

トランプ氏は、歴史的な低水準の支持率での船出となりそうだ。選挙での勝利の立役者となった白人労働者階層の支持をつなぎとめるためにも、米国の雇用を重視するトランプ氏の姿勢がぶれることはないだろう。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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