電通「過労死」問題は社長辞任で解決できない 「過剰労働」の裏にある「深刻な2つの問題」

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そういうひどいクライアントがいるからこういう深刻な問題が起きる、という認識がどうしてできないのでしょうか。電通も必死になんとかしようとしているようですが、このクライアントによる過剰圧力を何とかしない限り、この問題は際限がありません。

「この過剰な要求はいつまで続くんだろうか」と考えた新入社員がいて、それを明確にガイダンスできない上司、クライアントに対し無理なことは無理、と毅然と断れない上司、そして圧力をかけまくるクライアントと3拍子そろったら、それは新入社員、いや社員全員を殺そうとしているのと同意義でしょう。

こうなってくると、われわれの社会の中にある、そういう意識……「組織なんだから上司の命令は絶対だ」「女なんだから女らしくしろ」的なセンスがいまだにあちこちに残っていることに気が付きます。そういう組織の中にいたら、声を上げるにも挙げようがない。どれだけのサラリーマンがそういう閉塞的な状況に置かれているのかと思うと、これほどの不幸はないというしかありません。

若い人たちにいいたいのは、そういう「無自覚のモンスターたち」に襲われることがあるなら、直ちに人間が破壊される前にその組織を出るべきです。

日本の社会システムと歪んだ消費者意識を変えられるか

しかしながら現状はそういう自立した人間としてどう生きていくべきか、という教育がなされているとは言い難い。組織の中の一員としてどれだけ効率を上げられるか、という目標を掲げている教育があったとしたら、そのものを根本的に変えなければこの問題はなくならないと思います。

いかに人間は一人で自立して生きるべきか、という哲学と実際に独立して食っていける手法を徹底的に教えることが教育の現場では重要なのではないか、と思います。最終的には日本の教育制度そのものに問題がある、という結論になってしまいますが、結局はそういうことでしょう。

くどいようですが、今回の電通事件を単なる時短問題ととらえてはいけない。事の本質はそこにはありません。その裏にある日本の社会システムとわれわれの意識、はっきりいえば消費者に回った途端に相手を思いやれないというそのことが大問題なんだ…という、実に根の深い問題まで至らねばこの問題は解決不可能なのです。

(今回は競馬の予想コーナーはありません。ご了承ください)

ぐっちーさん 投資銀行家

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ぐっちーさん ■本名:山口 正洋(やまぐち まさひろ)。投資銀行家。1960年東京都港区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。丸紅を経てモルガン・スタンレー、ABNアムロ、ベア・スターンズなど欧米の金融機関を経て、ブティック型の投資銀行を開設。M&Aから民事再生、地方再生まで幅広く ディールをこなす一方、「ぐっちーさん」のペンネームでブログを中心に大活躍。2007年にはアルファブロガーを受賞、有料メルマガも配信中。さらに『AERA』や『SPA!』で連載をもちつつ、テレビやセミナーでも人気。主な著書に『なぜ日本経済は世界最強と言われるのか』(東邦出版)、『ぐっちーさんの本当はすごい日本経済入門』『ヤバい日本経済』(後者は共著、いずれも東洋経済新報社)などがある。競馬予想も一流。一方でメインレースはほどほどで、平場の条件戦などを好む。【2019年9月29日19時編集部追記】2019年9月24日、山口正洋さんは逝去されました。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。

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