「トランプ革命」の裏には貧者の誇りがあった 支持者が望む「力と存在意義」を与えられるか

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人々が生活の糧だけではなく、職業的な達成感を望んでいるのは、米国に限らない。どの国でも富裕層に重税を課し、そのカネを移転させて経済格差拡大に対処することは正しいとされる。だが、それはゲームを遊んだ後にルールを変えるようなものだ。

米スタンフォード大学のケネス・シェーブ教授とニューヨーク大学のデビッド・スタサベージ教授は近著『富裕層への課税』で、税率と所得格差に関する200年分のデータを基に、税引き前の不平等が拡大した際に政府が課税を積極化する傾向の乏しさを実証した。

『憤りの政治学』の著者キャサリン・クレーマー氏は、ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事がトランプ氏のように労働者階級の有権者の間で人気を博している理由を考察した。

ウォーカー氏は2010年の当選後、富裕層向け課税を軽減し、州の最低賃金を連邦の最低賃金より高くすることや、オバマ大統領が10年の医療改革で打ち出した低収入層のための保険市場創設をいずれも拒絶。代わりに賃下げにつながる可能性のある、労働組合の権力を奪う措置を公約した。

トランプ支持者を満足させるハードルは高い

クレーマー氏は同州農村部の労働者階級の有権者に、ウォーカー氏を支持した理由を聞いて回った。彼女のインタビューを受けた人々は、農村の価値観と個人的な誇り、勤勉さに基づいてウォーカー氏を支持したと回答し、経済格差是正への無力感も強調した。

有権者がウォーカー氏を支持したのは、その前の知事が課税だけを行い、大都市の人々に特権を与えていたことに対し怒りと憤りを抱いていたからだった。税金は公務員の健康保険や年金に回され、その対価を農民は享受できなかった。有権者は力と存在意義を求め、ウォーカー氏はそれに応えたわけだ。

こうした有権者は、情報技術(IT)が雇用に及ぼす影響をも憂慮する。経済的に成功した人々は農村部の住民でなく、技術的に精通した人が多いからだ。労働者階級の有権者は経済的に楽観できないと感じている一方、自身の価値観に誇りを持っている。

トランプ氏も自身の支持者を満足させるには、所得だけではなく権力を再配分する方法を見つけなければならないだろう。「トランプ革命」が支持者の真の望みをかなえることはたやすくない。

週刊東洋経済12月10日号

ロバート・J・シラー 米イェール大学教授

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Robert J. Shiller

ノーベル賞受賞経済学者。1972年にMITで経済学のPh.D.を取得。「資産価格の実証分析」を評価され、2013年にノーベル経済学賞を受賞。2000年に刊行された『投機バブル 根拠なき熱狂』は、アメリカのITバブル崩壊を予言した書としてベストセラーとなった。同じくノーベル経済学賞を受賞(2001年)したジョージ・A・アカロフとの共著『アニマルスピリット』も、サブプライムローンに端を発する金融危機を理解する書物としてベストセラーとなった。著書に『それでも金融はすばらしい』『不道徳な見えざる手』(アカロフとの共著)など。

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