何が失われてしまったのか
読者はご記憶だろうか。学校の教師やパン職人やセールスマン、技能工が自分ひとりの収入で家を買い、車を2台持ち、子育てをしていた時代を。私はよく覚えている。1950年代、父エド・ライシュは近隣の街の目抜き通りに店舗を構えていて、工場で働く男たちの奥さん相手に婦人服を売っていた。父はそれで私たち家族が十分気持ちよく暮らせるだけの稼ぎを得ていた。我が家は裕福ではなかったが、一度たりとも貧しさを感じたことはなく、1950年代から1960年代にかけて我が家の生活水準は確実に上がっていった。あの頃はどの家でもそれが普通だったのだ。
第二次世界大戦から30年ほどかけて、米国ではどの国にも見られないような巨大な中間層が形成され、米国経済の規模が倍増するのと同じように平均的労働者の所得も倍増した。ところが直近の30年を見ると、経済規模が倍増したにもかかわらず、平均的米国人の所得はどうにも動かなかった。
第二次世界大戦後30年に及ぶ高度成長期には、大企業のCEOの所得は平均的労働者の20倍程度であったのが、今や実質的に労働者の200倍を超えている。往時には富裕層の上位1%の所得が米国総所得に占める割合は9~10%であったが、今では2割以上を占有するようになった。
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