中山秀征の「相手に華を持たせまくる」仕事術 「DAISUKI!」で知った最強のポジション

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中山:あの真反対をやっていた。僕は難しさを知らなかったですし、松本さんがいたので、盛り上げるターゲットは直ちゃんだけでよかった。松本さんがうまく背後に回ってくれたのも大きいです。

三枝:すごいバランスで成り立っていましたね。

中山:思い返せば、 MCとして、松本さんの面白さと、直ちゃんの世間が知らない魅力を見せることに、すごくやりがいを感じていました。それまでは自分が前に出るほうが大事だったわけです。でも、MCとして相手を引き立てることが面白いというか、相手が評価されていくことが快感というか。「直ちゃん面白いよね、松本さんいいよね」と語られることが最高と思うようになったんです。実際、番組の中で僕は目立たないし、MCのテクニックは視聴者の方にはわからなかったかもしれませんが、それでいいと割り切れたんです。

三枝:萩本欽一さんの番組から、どんどんスターが出てきた時代がありましたが、萩本さんがご自身をスターだと考えていらっしゃらないのと一緒ですね。

中山:周りには「自分をもっと出さなきゃ」と言ってくれる方もいましたが、それが嫌ではなかった。自分を出さないから当たるんだという思いがありましたので、そういう意見に耳を傾けることはなかったですね。

予定調和が崩れたとき、人の心が動く

三枝:僕の理論だと、「MCがセンターいるようでいない番組がいい」というのを初めて体現した番組でした。中山さんの能力が前面に出ているようには見えないけれども、番組の根幹は中山さんによって支えられていました。会社でも一緒で、能力を前面に出したがる人間が、必ずしもチームに貢献するわけではなかったりしますから。

中山:三枝さんと番組を作ってMCの幅を学びました。「DAISUKI!」には、中身が何も用意されていない。場所だけがあって、「さあ続いてのテーマは?」という作り方でしたから。

三枝:ただひたすら街を歩くという。

中山:目に入ったものをいじっていく。すれ違ったおばさんと会話するとかね。

三枝:その意味では、今全盛の「ブラリ街歩き」フォーマットを作ったと言えるかもしれませんね。

中山:今だったら怒られると思いますよ(笑)。大まかに何をしようはあるんですよ。「今日は武蔵小山商店街を歩きます」とか。

三枝:制作側は、だいたいここは面白い感じに撮影できると思うから、「はいどうぞ!」でした。よく言えばですが、上司に与えられた仕事だけをやっていても、仕事は覚えられないし、スキルが上がらないですから(笑)。

中山:作っているディレクターたちも先回りして、あっち行ってみよう、こっち行こうというのがあるんですが、僕ら出演者は、ロケハンしているスタッフを越えようとする。遊びながら戦うというか、面白くするために戦っているというか。

三枝:お互いにね。チーム内で健全な競争が働いていたんですよ。

中山:本当にドキュメンタリーに近くて、予定調和ではなかった。

三枝:予定調和が崩れたときにこそ、テレビの画面からお茶の間に向けた「ライブ感」が生まれる。未完成であるがゆえに、人の心を動かすんです。これはテレビの世界だけでなく、ビジネスでも、プライベートでも一緒だと思います。

<後編に続く>

(構成:高杉公秀、撮影:尾形文繁)

中山 秀征 タレント

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なかやま ひでゆき / Hideyuki Nakayama

1967年群馬県生まれ。松野大介とのコンビ「ABブラザーズ」でデビュー。コンビ解消後1992年より『DAISUKI!』(日本テレビ系)の2代目MCとなる。以後『ウチくる!?』(フジテレビ系)や『おもいっきりDON!』『シューイチ』(共に日本テレビ系)など、多くの番組のMCを務めるほか、俳優、ラジオパーソナリティなど多方面で活躍中。私生活では元宝塚の白城あやかとの間に4人の子どもを持つパパとしても知られる。ワタナベエンターテインメント所属。Facebookページはこちら

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三枝 孝臣 コンテンツプロデューサー

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さえぐさ たかおみ / Takaomi Saegusa

1966年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。1989年日本テレビ入社。「ZIP!」「スッキリ!!」「シューイチ」を日テレの看板番組に育て上げた敏腕プロデューサー。バラエティ番組からドラマまで、手掛けた番組は100を超える。2015年に日本テレビを独立。新たにメディアデザイン事業会社「アブリオ」を設立するとともに、LINEの前社長・森川亮氏と「C Channel株式会社」を立ち上げ取締役に就任。現在、メディアの枠を超えてヒット作品を世に送り出し続けるコンテンツプロデューサーとして活躍している。著書に『一流のMC力』(東洋経済新報社)がある。

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