本当に強い会社には明確な「ビジョン」がある 「社員サイズ」に落とし込み、体現しよう

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Mさんの話を聞くうちに、その問題がくっきりと輪郭を現してきた。Mさんは社員が離れるという問題だけにフォーカスしてしまっていたのだ。「辞めたい」と言いだす社員がいると、話し合い、待遇を変えるなどしてなんとか引き留める。するとそれを知った他の社員は「『辞めたい』と言えば待遇が変わるのか」と思い、「辞めたい」というセリフを切り札として使うようになる。こんな悪循環に陥っていた。社員から見ると、「社長は場当たり的で、何を考えているか分からない」といったところだろう。

そこで私は「会社のビジョンを作りましょう」と提案した。遠回りのように見えるが、傾きかけた家を修復するなら、外壁よりも骨組みを補修したほうがいいのと同じだ。Mさんも私の意見に理解を示し、真剣に取り組んでくれた。セミナーに参加し、自己と向き合い、社員と向き合って作り上げたビジョンは「社員みんなの笑顔で、社会に貢献できる会社にしたい」というものだった。

Mさんは、ビジョンを持つことで視野が広がり、何がこれまでのような事態を引き起こしていたのか、次第に理解するようになった。そして、「自分の思いを押し付けるのではなく、社員の意見を聞いてみよう」と、社員にヒアリングを始めたのだ。すると、社員たちはもっと主体的に仕事をしたがっていることが分かってきた。

そこでMさんは「もっとみんなに任せてみよう」と方向転換した。自分たちで動けるようになった社員からは、「お客様のニーズを聞こう」という話が出て、売り込み主体だった営業戦略が一変。顧客の話を丁寧に聞き、その情報を全部署で交換しはじめた。これまで部署間のやりとりなどほとんどなかった社内で、頻繁に対話がもたれるようになり、社内の雰囲気がとても明るくなった。

営業成績も伸び、かつて50%近い離職率に悩んでいたが今では、社員が辞めないだけでなく、数名しか新卒は採らないというのに60人もの学生が会社見学に来たという。

ビジョンは”社員サイズ”に落とし込め

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会社のビジョンを理解してはいても、日常業務を行ううえでは、なかなかピンとこないかもしれない。そういう場合は、自分サイズにビジョンを落とし込んでいくといい。

何気ない日常業務の中にも、ビジョンへのつながりは必ずある。そこを見極め、社としての大きなビジョンを持ちながらも、自分の作業スケールに合わせた実践的な合言葉を持つといいだろう。こうした合言葉、つまり日常業務の軸を持つことによって、ブレることなくビジョンを実現することができるのだ。

逆に言えば、優秀なビジネスマンは自分なりに会社のビジョンを自分サイズに落とし込み、仕事へのやりがいを見出す力をもっていると言える。もし、あなたがビジネスマンであれば会社のビジョンを自分なりの合言葉に変換して、日々の仕事に掲げてみると良いだろう。

成功している企業は、ビジョンがすばらしいだけでなく、そのビジョンをしっかりと体現しているということに気づくだろう。ビジョンを持って主体的に取り組めば、結果が出るだけでなく、仕事はもっともっと楽しくなる。

あなたのヤル気がでないのは会社の責任であると冒頭にお話ししたが、あなたが、会社のビジョンに沿った自分なりの合言葉をつくることで、日々のモチベーションと効率を上げることはできる。それが優秀なビジネスマンの条件ともいえる。

羽谷 朋晃 ビジョン経営コンサルタント

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はたに ともあき / Tomoaki Hatani

関西学院大学を卒業後、ビジョナリーカンパニーであるジョンソン&ジョンソン株式会社に入社。その後日本ベクトン・ディッキンソン株式会社に転職し、今後100年の継続した成長を目指した変革プロジェクトを推進する一方で営業本部長として営業、マーケティングそして機械のメンテナンス部門のリーダーとして企業変革を成功させ、ビジョンのもとの経営が売上や利益を生む事を実践した。
企業変革の実務ノウハウに加え、米国NLP協会の神経言語プログラミングの心理学や脳科学的アプローチを取り入れ、「感情×行動」理論を新たなノウハウとして組み込んだプログラムで数多くの企業変革をサポートしている。

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