なぜならば国際金融の現実を見るかぎり、それは「つねにそこにある人的ネットワーク」によって動かされているからだ。つまりロンドン・シティ(「ニューヨーク・ウォール街」ではないというのがポイントだ)につねにいて、何となればそこで行われる「閉ざされた(クローズドな)内輪の会合」に顔を出し、名前を覚えてもらう中で徐々に流れがわかり相手にされてくる。それが「大英帝国」が築き上げてきた国際金融システムと付き合う唯一の方法だからである。それなのに必要なときだけやってきて、これみよがしにマネーや製品を掲げ、「これを買ってください、日本に投資してください」とだけやり、後は島国に戻ってしまい何も対外発信すらしないというのでは、まったくもって論外なのだ。
国際経済会議の重要性を知らない日本人
もっと言うと、そうであるからこそ中国が冒頭紹介したような国際会議の場で、「対ジャパンマネー批判」を行うのを許してしまっているのである。私は今回の会議以外にもいくつも国際経済会議に出席しており、たとえばドイツのキール世界経済研究所が主宰している「グローバル・エコノミック・シンポジウム」では、議題提案権を持つナレッジ・パートナーを務めている。私たち日本人はマーケットのことというと、アメリカが何でも決めてしまっていると思い込んでいる。だが決してそんなことはないのである。マーケットにはそこで起きている現象を説明してくれる「経済論陣」なるグループがいる。そしてこれら「経済論陣」のお歴々が集まる場として開催されているのが、あの有名な「世界経済フォーラム(ダボス会議)」を筆頭とする国際経済会議というわけなのだ。
そのことをいちばんよく知っているのが、金融資本主義の申し子とでもいうべきエマージングマーケットの筆頭格「BRICs諸国」である。だからこそロシアを率いるプーチン大統領は2007年から「サンクト・ペテルブルク国際経済フォーラム」を開催し、こうした「経済論陣」が寄り集う場を創ったというわけなのだ。国際社会、そして外交の現場では会議をする場所をどこにするのかが、たいへん重要な意味を持つ。なぜならば開催国(ホスト国)ともなれば世界中から集まる人々のお世話をすることになるからだ。
逆に言えば参加者たちはトップリーダーから取材陣まで、全員がホスト国の「お世話」になるわけであり、当然、その悪口は言えなくなる。そしていちばん重要なのが、議題に際してホスト国は大きな発言権を持つことになるという点である。誰が集まろうと議題の設定がホスト国にとって有利なものであれば、話はおのずと、その方向に流れていく。たとえば今回の「サンクト・ペテルブルク国際経済フォーラム」でいえば、パネリストたちからロシアマーケットが依然として抱えるリスクやその問題点について、言及は確かにあった。しかしそこには暗黙の了解として、「ロシアはこれから経済成長を着実に遂げる。だから皆で投資しようではないか」という論調があらかじめセットされていたのである。
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