原発と遺伝子組み換え作物は非民主的だ 『世界が食べられなくなる日』 ジャン=ポール監督に聞く

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――セラリーニ教授の実験結果に対してはEFSA(欧州食品安全機関)をはじめ、各国のリスク評価機関が疑問を呈しています。

この実験結果については査読付きのフード&ケミカル・トキシコロジー(Food and Chemical Toxicology)という正当な科学雑誌の2012年9月号に掲載されています。また2013年1月号ではセラリーニ教授が質問状に回答する形で批判に答えています。実験結果については欧州のある実験機関が疑問を唱えているほか、遺伝子組み換え問題に詳しい科学者数人が批判をしています。しかし、フランスやドイツ政府は公式にはこの実験結果について立場を表明することは控えています。

日本の原発事故をどう思う?

――この実験結果が正しいとすれば、遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆をいちばん食べているのはウシやブタなどの家畜です。こういった生物には影響がないのでしょうか。

今のところ、遺伝子組み換え作物を食べた家畜がどうなっているかを調べた実験は存在しません。しかし、この映画を見た農家は、干ばつが起きた2003年に遺伝子組み換え作物を多く与えたところ、流産する雌牛が増えたと証言しています。

――この映画では遺伝子組み換え作物と原子力発電が取り上げられています。監督の目に日本の原発事故はどのように映ったのでしょうか。

私が見たのは悲劇です。そして犯罪が続いている現状です。地球上どこでも年間の許容被爆線量は1ミリシーベルトです。それが福島では20倍の20ミリシーベルトに設定されている。これを私は犯罪と呼びます。私は知らなかったが、福島は日本でとても美しくて、豊かな地域です。そういった地域の終焉を見ました。この映画には福島県の小さな町の様子を映しています。心地よい春の日で、花が咲いているのに、人もクルマもなく、生活の音がない。私は死を感じました。

――印象に残ったシーンがあります。警戒区域の福島県飯館村で、フランスのミシェル・リヴァジ国会議員(緑の党)だけが青いレインコートを着て完全防御しているのに、日本人の撮影スタッフや飯館村の住民はワイシャツ姿です。この温度差は何を示しているのでしょうか。

ミシェル・リヴァジは科学者で、チェルノブイリの事故が起きた後、フランスでクリラードという放射線に関する独立系の委員会を作った人です。彼女は放射線の恐ろしさについてはよく知っているので、防御をする必要がある認識したのでしょう。

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