「既存の予算の余った枠で、スマートフォンアプリなど、新しいO2Oの施策を入れる。非常に効果が上がり、予算を増やす流れになったとしても、半年後か1年後。なかなか難しい。今は道半ば」。緒方氏は、苦しい胸の内を明かす。
あえて、売り上げは店舗に付ける
技術革新の波を肌で感じているネット部門では、危機意識も強い。アマゾンのような海外のネット企業も競合の状態にある。
「ショールーミング」。現在、流通企業が直面している消費行動の変化の中で、最も象徴的な言葉だ。店頭で現物の商品を見て、同じ商品をアマゾンなどのネット通販で買うという消費行動のことだ。スマートフォンの普及、ネット通販の成長とともに、ショールーミングはさらに拡大していくだろう。
2013年秋、東急ハンズはスマートフォンアプリを提供する予定だ。背景には、ショールーミング対策がある。東急ハンズの自社のネットストアに消費者を積極的に促すことで、アマゾンや楽天のような他のネット通販への顧客の流出を防ぐ。いわば、自社内ショールーミング。逆転の発想だ。
現在、次のようなアプリを構想している。
消費者は、東急ハンズに来店し、スマートフォンの専用アプリを立ち上げる。店頭で気になる商品を見つけたら、アプリのマイページに気軽に記録できる機能を用意する。店では購入を迷って買わなかったとしても、帰りの電車の中で、「やはり欲しい」と思う場合もあるだろう。マイページからアクセスし、ネットストアから簡単に決済が完了する。店舗に取り置きができる機能の提供も考えられる。
ここで大事なのが、リアル店舗側への気配りだ。店舗側から見ると、ネットの施策を導入することで、ネット部門に売り上げをとられてしまうという意識がある。多くの流通企業において同様の課題が見受けられる。
そこで考え出されたのが、店舗への売り上げの“付け替え”だ。ネットストアで決済された場合でも、リアル店舗に売り上げをつける構想だ。たとえば、先の例のように、店舗で見かけた気になる商品をアプリに記録し、後でネットストアから購入した場合、アプリで商品を記録した現場の店舗に売り上げを付け替える方法が考えられる。
グローバル化やIT化が進む現状下で、社内で顧客を取り合っている場合ではない。
東急ハンズは、在庫情報のオープン化、顧客・ポイントデータベースの一元化など、ネットとリアル店舗のシームレス化を目標に先進的な取り組みを続ける。それを、店舗経験のあるエンジニアによるシステムの内製化、店舗部門とネット部門の社内調整などの地道な活動が支えている。
多くの流通企業が抱える共通の課題、社内をいかに納得させられるか。東急ハンズは今まさに、そこに挑戦している。
次回は、“コミュニティ”に立脚した東急ハンズのO2O戦略に注目してみよう。
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