AI時代が到来!将棋も産業もこう激変する 羽生善治vs松尾豊「鍵はディープラーニング」
松尾:すごくわかりやすいですね。レジデュアル・ネットワークという手法では、多層化で生じやすくなる誤差を、バイパスを作ることで修正するように訓練するのですが、まさに3人くらい飛ばして伝言するという感じです。
ディープラーニングでは、いろいろと面白い研究が出てきています。たとえば、今まではビリヤードの球の動きをコンピュータ上で再現するだけでも、ニュートン方程式など物理モデルを作るしかありませんでした。でも、ディープラーニングを使うと、ただビリヤードの球がどう動くかというパターンを見せ続ければ、予測できるようになります。この球をこっちの方向へ打つと、こうなって、ここら辺に止まるだろう、と予測できるようになるのです。
少し前は「イチローが上手に打てるのはニュートン方程式を解いているからか」「解いていないのになぜできるんだ」みたいな議論がありました。が、ディープラーニングを使えば、ある状況を思い浮かべたとき、次に何が起こりそうかを予測し、それがよいことか悪いことかを判断して、行動を選べるようになる。これは自動運転でも同様で、今の状態で走っていくとどうなるかというシミュレーションができます。これは大きな進展だと思っています。
脳の疾患も治療できるようになる?
羽生:ディープラーニングでは、人間の脳の仕組みをモデルにしていますが、脳の構造や認識のあり方は分かっているのですか?
松尾:分かっていません。視覚の仕組みやニューロンの種類など、部分的には分かっています。ただし、それがどうマクロの挙動へつながるかというところまでは、分かっていません。
でも、興味深い手掛かりは、分かってきました。韓国サムスン電子などは、ディープラーニングによる推論をスマホでやろうと、圧縮技術を開発しています。ニューロン間のつながりで重要性が低いところは消す、似たものは同一にして間引いていくのですが、相当間引いても、あまり精度は下がりません。ただ、ある水準以上を間引くと、精度の曲線がダーッと一気に下がってしまいます。これを医者に見せると、「アルツハイマー症と一緒だ」と言われました。最初はまったく症状に出てこないのですが、途中からダーッと悪くなってしまう。おそらく人間の脳でも、同じような現象が起きているのだと思います。
米グーグルは「DeepDream」(編集部注:画像を処理させると、ディープラーニングで認識した画像の特徴量を強調して、元のデータにフィードバックさせてくれる)のアプリを公開していますが、それを使うと、いろいろとピカソ風の絵を作ることができます。これも医者に見せると、脳の病気の人で同じような絵を描く患者がいるそうです。
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