日銀批判論者は「ガラパゴス化」している 世界は日銀追随、アベノミクスは終わらない

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このため、「量的金融緩和の限界」「日銀の失敗」などの評価が、日本のメディアで多いのは理解しがたい。もちろん、「新たなフレームワークを導入しても、依然金融緩和は十分ではない」、との議論は筆者も理解できる。だが、それとは真逆の視点からの、日銀に対する批判はおおむね的外れと考える。

もしかすると、日本の論者は、最近の先進各国中央銀行の潮流をあまりご存じないのかもしれない。というのも、まず、9月に日銀が導入したオーバーシュート型コミットメントについて、明示的には先進国の中央銀行は導入していない。

日銀が新金融緩和を先導、英米が「実質追随」の流れ

だが実際には、ターゲットを上回るインフレ率上振れを容認し、金融緩和を継続する必要性については、複数の中銀の共通認識になっている。

例えば、イングランド銀行(BOE)のブロードバンド副総裁は、筆者の証券会社時代のかつての同僚だが、10 月17日に「向こう数年のうちにインフレ率が恐らく英中銀の目標である2%を「幾分」超えるだろう」と発言した。イギリスでは、BOEの金融緩和期待で通貨ポンドが大きく下落し、それがインフレ率押し上げになる可能性が高まっている。通貨安でインフレ率が高まりターゲットを超えても、経済安定を重視して金融緩和政策を長期化するということである。

また、イエレンFRB議長も、10月14日の講演で、インフレ期待を高めるためのインフレ目標の引き上げに言及している。FRBは利上げを継続する姿勢は変わらないが、一方で世界的な成長減速や均衡利子率低下への対処が議論される中で、柔軟に金融緩和のオプションを幅広く検討している。その中で、インフレ目標引き上げを金融緩和強化の手段と認識しているわけである。

日銀は、1990年代後半から脱デフレを実現できず、物価安定の実現に失敗し続けた。それを教訓とする黒田総裁率いる現在の日銀執行部は、金融緩和の手段拡大を試みる中で、オーバーシュート型コミットメントを採用し、2%インフレ目標の実現を目指したと筆者は考えている。強力なデフレファイターである黒田日銀の主流派メンバーだからこそ、他の中銀に先駆けて「アグレッシブな政策」に踏み出したということである。

ところで、日銀が導入したイールドカーブコントロール政策は、世界のインフレ率が上昇し、米国を中心に金利上昇が起きる局面では、実質金利低下と円安をもたらす経路で金融緩和効果が高まる。日本のコアCPI(消費者物価)は現状マイナス近傍で推移しているが、米国、欧州などのインフレ率は、2016年初までの原油下落の効果が剥落し、じりじり上昇しつつある。

筆者が注目しているのは、景気下振れリスクが深刻とされる中国でも消費者物価が9月に前年比約2%上昇まで回復し、また同月の企業物価も、2012年以来4年以上ぶりにプラスに転じたことである。

歴史的な原油安による世界的なディスインフレ圧力の和らぎとともに、中国など新興国の需給環境が好転する中で、世界的に緩やではあるがインフレ率は上向きつつある。こうしたグローバルなインフレ環境の変化は、日銀による「10年金利ゼロの(事実上の)ペッグ政策」がもたらす緩和効果が増幅することを意味する。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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