田中角栄の何が多くの人々を惹きつけたのか 最もよく知る男が語る「限りなき人間的魅力」
立派な座敷に座ったら、大きなテーブルの上に見事な伊万里焼の大きな器が置かれていた。水が満々と張られて、白魚(しろうお)がぴちゃ、ぴちゃ、水を跳ね散らし、数えきれないほど泳いでいる。それを見た角栄さんが感心した。
「ほう、これは何と見事なもんだ。メダカですか」
このセリフに満座がドッと沸きました。がっくりしたお内儀(かみ)さんが、
「ご冗談ばっかり、先生、白魚ですよ」
「はあ、これが白魚か。わしは初めて見たもんで、びっくりした。どうやって食べるの」
「生のままピチピチ跳ねているのをお箸でつまんで、ちょいと酢醤油をつけて、口の中に放り込むんです。喉を通るときの感触が、とてもよろしいんですよ」
お内儀さんの話を聞いて、田中が絵にも描けない顔になりました。角栄さんは生ガキ、エビの踊り食いが鬼門です。生臭いのは一切ダメ。寿司も卵焼き、カンピョウ巻きが大好きで、生ものは赤身、ヒラメ、鯛がせいぜいです。
「悪いけど、わしは卵とじにしてくれないか。早坂は生きたのが好きだから、彼がたくさんいただきます」
真顔で言うもんですから、座敷がまた、笑いに包まれました。私は少し恥ずかしかったけど、そうしたセリフを何のてらいもなく言ってのける角栄さんは、やっぱり人さんを惹きつけるだろう、これでいいんだ、そう思いました。
大蔵大臣閣下の「お握り」
昭和38(1963)年11月の総選挙で主従二人、当時の新潟三区を車で走り回ったことがあります。
大蔵大臣閣下と私の昼飯は握り飯でした。今はもう亡くなられた田中のお母さんが、生まれたての赤ちゃんの頭ほどもある大きなお握りに海苔をびっしり巻いたのを二つ用意してくれて、車の中で食べるのです。
「腹が減った。もう昼だろう。ばあさんが持たせた握り飯を出せ」
田中は朝昼晩、時分どきになると、メシをしっかり食べます。
あの人は口が大きい。私は口が小さくて、親分の半分しかありません。
「メシは早く食うもんだ。お前のようにノソノソ食ってると、戦争になったらいちばん先に殺されるぞ」
お握りにかぶりついたら、皮付き骨つきの塩鮭が一切れ、丸ごと入っていた。車の隣の大将が上手に骨を取り出して、一本ずつ丹念にしゃぶるんです。
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