木本:チャッチャッと返済して借金をなくしてしまおうと。
井手:借金を返すためにはおカネが必要です。すると従業員の給料を削って捻出する、それが一つ。
次に、「IT化」が進むと、手に職を持った人がやっていた仕事が誰でもできるようになってしまう。コンピュータが発達して、会計の仕事は重要でしたが、会計ソフトで誰でもできるようになった。すると今まで高いおカネをもらっていた人の給料が下がりますよね。
木本:専門職が、意味を持たなくなったということですね。
井手:これでまた賃金が下がる。さらに「グローバル化」で中国やインドといった新興国の安い商品が入ってくると、向こうは安い給料で安い商品を作っているからこっちも競争に勝つためには人件費を下げないといけない。こうした給料が下がるプレッシャーが1990年代に強く働いていたのです。
政府はその中で、頑張ったと思います。公共事業を増やしたり、減税をしたり、といろいろなことをやりました。ところが、残念ながら賃金下落のプレッシャーに勝てなかった。だから賃金は上がらなかった。賃金が上がらないと消費が控えられ、企業の売り上げも減る。そうすると企業はまた賃金を下げないといけないという悪循環になる。ふと気づくと、給料は下がっているし、借金まみれの財政になってしまった。
木本:かみ砕いて説明していただき、ありがとうございます。よくわかりました。それが、「失われた20年」で生まれた構図なわけですね。その結果、国民全体が不安の中で生きざるを得なくなってしまった、と。
自殺者が1年で9000人も急増した異常な社会
井手:1回目でお話しした、幼稚園や保育園、介護や医療といったものがもっと安い値段で提供できれば、貯金はなくとも不安にならずに済む。それができていれば、こうまで自殺者が増える社会にはならなかった。
1997年から1998年にかけて自殺者が急増しました。2万4000人から3万3000人に、たった1年で9000人も増えた。理由のひとつは、所得が落ちていって、将来に絶望した人が多かったことです。これは異常な社会です。老後が不安だと答える国民が9割近くいるというのも異常です。であれば、せめて成長がストップして貯金ができなくなったとしても、もうちょっと安心して生きられる社会を作るべきだったと僕は思います。経済の停滞はしかたなかったと思うけど、これだけは政府や政治家の責任があると思う。
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