木本:生きていればなんとかなる、という環境ですね。
井手:「失われた20年」の時期に作るべきでした。今まで僕らが貯金していたおカネを税で払えばよかっただけなんです。例えば1990年から1996年までは所得は増えていました。1996年から下がり始めるのですが、所得の減り方は少しずつだった。まだ貯金をする余裕のあるときに、みんなのために貯金する気持ちで税金を払っていれば、将来への不安は今よりだいぶ少なかったと思います。でも、その発想も、国民を説得する政治の力も不十分だった。
木本:国民の不安を解消できる対策は不十分だったんですね。
井手:自分の貯金の一部をみんなの貯金にするかわり、いろんな将来不安から解放される。希望と不安を分かち合う気持ちを持てれば将来への不安は少なくなる。頑張れば、そういう社会が、今より経済的に体力のあったバブル崩壊後の時期に作れたはずなんですけどね。そこは残念だった。
木本:この「失われた20年」で、テクノロジーも発展しましたよね、ネット社会が進んだことで、ネットの中だけの関係、見えない人との絆でコミュニティができて、イメージが一つになりにくくなっているように思います。本来ならば隣にいる人の絆とか、家族の絆からイメージ膨らませて、仲間みんなで潤って幸せになりたいねとイメージできていたものが、一つにまとまりにくくなっている。全体の幸福をイメージできない若者が多くなっているのでは。
熊本と小田原、城下町同士の連帯が生んだもの
井手:僕は神奈川県の小田原市に住んでいますが、「みんなのための幸せ」に関するとても素敵なことがありました。小田原城が5月1日にリニューアルオープンしたんですが、その日の入場料収入を熊本城の再建に全額寄付したんですよ。熊本市長は「涙を流しそうになった」と大変喜ばれたそうです。小田原市民もすごく誇りを持てました。
お役所はふつう仕事が遅いものですよね。でも小田原市の市長さんが「何か熊本を助ける手はないか?アイデアを出して」といって、わずか2日で寄付することに決めた。政治家も職員も納得したうえで、です。なぜこんなに早く決断できたのか聞いたら、「反対意見が出ないと確信していた。なぜなら、自分たちのお城が壊れたら、とてもじゃないけど小田原市民はやっていけない。同じ思いを熊本の人たちはしている。そのためだったら、自分たちのおカネを使ったっていい」と。だから時間かけなくても市民は納得してくれると。で、たった2日間でメディアに発表した。大変な決断だったと思うのですが、僕たちにものすごく大切なことを教えてくれています。「何が違うか」と考えると人間は傷つけ合うけど、「何が同じか」を考えると人間は助け合うということです。
木本:なるほど。城下町に誇りを持って住んでいる人たちの連帯ができたんですね。
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