そしてもうひとつの大きな課題が、安全性の証明だ。墜落すれば大惨事が避けられない旅客機は、航空法で厳しい安全基準が課せられている。実際に製品として出荷するには、開発メーカー自身が機体の安全性を確信するだけでなく、それを客観的に証明して、国から型式証明と呼ばれる設計承認を得る必要がある。
「極論すれば、飛行機自体を作るよりも、その安全性を証明するほうが大変」と川井社長自身が語るように、型式証明の取得には膨大な労力と時間を要する。何しろ、型式証明は「飛行」や「強度」「設計・構造」「動力装置」など分野ごとに数十項目、全部でざっと400もの細かな基準項目が定められており、そのすべての基準を満たすことが義務づけられている。
開発メーカー側は項目ごとに必要な解析・試験データを用意し、基準に適合することを自ら証明しなければならない。こうした証明作業は開発と並行して進められていくが、「1項目を証明するための提出資料が数百ページに及ぶのはザラ」(審査に当たる国土交通省の航空機技術審査センター)というから、何とも気の遠くなるような作業である。
「何としてでも開発をやり遂げる」
開発に伴う資金負担もこれから一挙に重くなる。人件費に加え、飛行・地上試験に必要な実機製作に伴う出費が本格的に始まるからだ。「開発費用は今2013年度からハネ上がり、14、15年度と高い水準が続く」(三菱航空機)。しかも、期間損益の黒字化は商業機の量産開始から数年後、投資を回収し終えるのははるか先のことだ。
こうした一連の課題や多額の先行投資負担は、MRJを世に送り出すための“産みの苦しみ”とも言えるが、「われわれが全力で頑張れば乗り越えられる。何としてでもやり遂げる」と三菱重工の大宮英明会長は言い切る。
その大宮氏から4月に三菱重工社長職を引き継いだ、宮永俊一新社長も思いは同じだ。「旅客機は参入障壁が非常に高い。しかし、その大きな壁を乗り越えれば、長期にわたって開発者メリットが享受できる。MRJは当社の長期的な発展に欠かせない」。三菱重工の未来をも背負ったリージョナルジェット旅客機・MRJ。その誕生に向けた挑戦が続く。
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