今の若者はプライドが高すぎる “戦う哲学者”中島 義道氏に聞く

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人生どうなるかわからないのに、初めから全部を決めてしまう変な青年がいて、「僕の理想には1000万円以上必要だから、辞めます」と言うんです。「なんでですか?」と聞くと、「東大を出て、博士課程まで行って、教授になるには1000万円かかるから」と言うんです。これはおかしいですよね。

今の若者はプライドが高い!

今の若者はものすごくプライドが高い。何の実績があるわけでもなくて高いんです。そのプライドはとても傷つきやすくて、20歳、30歳だったらまだかわいらしいけれど、40歳、50歳になっても何も評価されることをしていなくて、プライドだけ高くてもダメでしょう? 「プライドを持つな」と言うのは難しいから、どうしようもない。絶対に傷つかないで、プライドを満足させたいと思っている人が多いのです。

――好きなことはどうやって見つけたらいいですか。

私は考えたんです。(A)好きなことができるけれども、名誉も地位もカネも与えられない。あるいは、(B)好きなことはしてはいけないが、名誉も地位もカネもすべて与えられる。どちらを選ぶかと聞かれたら、私は(A)を選ぶ。それが「好きなこと」を知るひとつの試金石かな。好きなことができるのなら、ほかに何も求めないのだから、そのために挫折しても別にいいわけですよね。

中島 義道(なかじま・よしみち)
電気通信大学元教授・哲学塾カント主宰 
1946年福岡県生まれ。77年東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻修士課程修了。83年ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了、哲学博士。専門は時間論、自我論。2009年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授を退官。現在は「哲学塾 カント」を主宰し、延べ650人が参加した。著書は『働くことがイヤな人のための本』『私の嫌いな10の人びと』『人生に生きる価値はない』(以上、新潮文庫)など約60冊を数える。

65歳を過ぎた今、私は比較的好きなことをしています。優秀な若い哲学仲間(非常勤講師)が10人くらい来てくれる哲学の場があるのは、何にも代えられない宝ですね。初めから自分にそういう目標があったわけではなくて、「あれもだめだ、これもだめだ、それもだめだ」と思ってやってきているうちに絞られてきたんです。「哲学をやりたくてたまらない」と思っていましたが、この歳までとにかく続けてこられたのはまったくの偶然でしょう。

人を見ていると、好きなことをしている人は人間的に柔らかくて、とても気持ちがいい。一方、満ち足りていない人は、他人に害を加えるんですよ。「俺もできなかったんだから、お前もするな」「夢なんか持つな」となっちゃう。私は哲学をしたいという相談を受けたら、誰にでも「はいどうぞ、路上生活者になるかもしれませんがやってください」と言います。私は今、好きなことをしているから、他人があまりうらやましくない。確かに村上春樹みたいに売れたらいいと思いますよ。イチローだっていいけど、イチローみたいにはなりたくない。野球は大嫌いだし(笑)。

私は、自分が好きなことをして他人を喜ばせている人は、さらに褒美をあげなくてもいいと思っている。むしろ、危険な労働をしている人や人生でいわれのない苦しみを受けている人(たとえば被差別者、障害者など)に褒美をあげたほうがいい。ベストセラー作家や野球選手は、もう十分報われているから、そのうえ賞をあげることはない。

看護師や消防士の年収は1億円にすべき?

私の考えでは、看護師さんと消防士は年俸1億円。イチローは好きなことをやっているから500万円くらいでいい、それくらいの認識を持っています。私自身に関しても、名誉がついて回る仕事は全部やめようと思ってる。名誉教授も断ったし、すべての賞は辞退する。いかなる褒美もいらない。その代わり、他人が名誉あることで表彰されてもまったく無関心です。

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