――中島先生自身は4年前まで大学の哲学の教授として働いていらっしゃいましたが、就職する際に、絶対に譲れないと思った条件は何でしたか。
私は金持ちや有名にはならなくていいと思っていたのですが、自分の考えていることを言わせてくれないところはいやだと思ったんです。ほとんどの会社は言わせてくれない。 好きなことが言えるには哲学とか、文学とか、ある特権的な立場でないとダメでしょ。私が主宰する「哲学塾」では、少々身の危険がありますけれども、好き勝手なことが言えます。そういう言語が使えるということは、私にとっての「自由」のいちばん重要なところです。本当に自分が考えていることを言わないと、自分の言葉がなくなっていく。自分が何を考えているかもわからなくなってしまう。
最近は「絆」の大号令
現代日本は、疑いを持つにしても、みんなと同じ疑いしか受け入れてくれないし、ちょっと他人とずれると精神的にきつい。とても縛りが強くてストレスがたまる社会ですよね。特に最近は「絆」の大号令でしょ。「絆はいらない」とは言っちゃいけないんだよね(笑)。私はいわゆる「中二病」で、ある面であの頃から全然成長していない。だから私には若い人から「大人のくせにこういうことを言っていいのか」とか、「初めてはっきりと言ってくれる大人がいるのに驚いた」という手紙が来ることがあります。
ネット上で匿名で発言する人は、生身の体を張らずに、安全地帯で語っているから嫌い。私は匿名の言語はいっさい信じない。一方、作家はどんなバカな作家でも、私も含めて、刺されたり爆弾を仕掛けられたりするかもしれない。殺されないまでも、ものすごい失点を被るかもしれない。だからこそ、言語を発する権利があると思う。やくざの親分でも誰でも、名前を出して語るかぎり、匿名でどんなに立派なことを語る人より、批判も反発もされるから、えらいと思っています。
――好き勝手に言えることのほかに、仕事に求めていたことはありますか。
嫌な他人を拒絶できることですね。新入社員のように弱いと誰も拒絶できません。その人ににらまれて、会社での居心地が悪くなると思うから。「私はこういう信念で動いています」と言うためには、強くなくちゃいけない。そのためには、その会社が必要としている人であればいい。会社でうまくやるためには、できる社員になるしかないんです。そして社長になれば、「今日からみんな、“さん”づけにしましょう」など、かなり自分の好きなように変えられます。それまで、ある程度、耐えなくちゃいけない。
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