ホワイトハッカーが創る「イケてる政府」の姿 カリフォルニア州「現役副知事」が語る

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彼の信じるところによれば、知的余剰には人間の生き方や働き方を変える潜在力がある。シャーキーは自説の例証として、ウィキペディアを挙げた。彼の計算では、ウィキペディアにはおよそ1億時間分の労働が注ぎ込まれている。一方で米国民は、合計すると毎年2000億時間もテレビを見て過ごしている。ウィキペディアに投じられた一見膨大な時間は、実際には私たちが1年間にテレビを視聴する時間のわずか0.05%に過ぎないのだ。

善意で活躍する「ホワイトハッカー」

持てる技能の限りを尽くして政府のシステムを改善しようとする人々を「ホワイトハッカー」と呼ぼう。ハッカーという言葉には否定的な印象が伴うが、『ホール・アース・カタログ』の伝説的な創刊者であるスチュアート・ブランドは、ホワイトハッカーを「壊れたものやデキの悪いものを善意で直す人々」と定義する。

そして社会は「いい意味で、よりハッキングしやすい方向に変わっていく途上にある」と述べる。それも「クソ野郎どもではなく、善意のハッカーの手でそうなるのが理想です」と。

そうなってくると、いままでの常識に従って普段と変わらぬやり方を続けるのではなく、違ったやり方を考えなくてはいけない。

ブランドはその一例を挙げた。「毎年秋にMITで開催されるiGEM(学部生を主体とする合成生物学の国際大会)には、世界の26カ国から200チーム近い学生たちが集まります。新たな微生物を生みだすためにね。彼らは学部生ながら、世界的なレベルの遺伝子操作を行っているわけです」

これは教育的な見地からはすばらしいことだが、法執行の見地からは恐るべきことだ。何と言ってもバイオテロリズムの脅威が現に存在する。ブランドが『ホール・アース・カタログ』を出していたかつての時代なら、FBIも大会をつぶそうとしたかもしれない。

「FBIがハッカーの会合にしばしば姿を見せていた日々のことを思いだしますよ。私たち全員が犯罪者であるかのようにね」。しかし今ではFBIも異なるアプローチをとっている。ブランドはこう述べる。「iGEMやバイオハッカーの会合に顔を出すFBI捜査官がいます。名刺には名前と『大量破壊兵器担当』というFBIの所属が書いてあります。彼はやって来て、次のように言うのです」

「君たちのしていることはすばらしいと思う。学部生がこのレベルの研究をこなすとは驚異的だ。私は政府から来た。君たちを手伝うためにだ。電話番号を渡しておこう。怪しげなことが行われていたら、きっと君たちの目に入るに違いない。おかしなことに気がついたら、私に電話するなり、メールを送るなりしてほしい」と。

バイオハッカーを敵視するのではなく、彼らと協力し合うことにより、このFBI捜査官は最終的にはより多くの情報を手に入れることになる。これもウィン・ウィンの関係である。

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