ホワイトハッカーが創る「イケてる政府」の姿 カリフォルニア州「現役副知事」が語る
以下に、この5つのテーマの力を感じられるストーリーを3つ、紹介しよう。クライムスポッティング、ホワイトハッカー、コード・フォー・アメリカだ。
犯罪多発地帯を一括表示「クライムスポッティング」
データ・ビジュアライゼーションなどを手がけるエンジニアである、マイク・ミガースキ。彼が住むカリフォルニア州オークランドは、犯罪発生率の高さで知られている。彼は市の公式な防犯サイト「クライムウォッチ」をのぞいてみた。そこで見たものに、彼は愕然とした。「オークランド市はどんな犯罪が起こっているのかを、市民に必要最小限しか開示していませんでした」と、マイクは言う。
そこで彼は行動に出た。クライムウォッチから自動的にデータを引き出す高度なデータ収集ツールを自作したのだ。そして、自宅の近くであるジャーナリストが射殺されたのをきっかけに、そのデータを公開する「クライムスポッティング」というサイトを立ち上げて公開した。
そのサイトは、使いやすい双方向のもので、市民は、過去にいつ、どこで犯罪が発生したかを一覧できるようになった。普通は、巡回してきた警官から、「この近所で犯罪が発生しています。注意して下さい」と言われるものだ。しかしマイクのツールによって、市民は、「この近所で犯罪が多発している。どうなっているんだ」と、警察署に対策を求めることができるようになった。
マイクは隠されたデータを発掘し、人々がその意味を理解できるようにした。市当局は、意欲があり、希有なスキルを備えた市民から、無料のギフトを贈られたわけだ。ところが市は、市民が勝手にそういうことをすることを好まなかった。市はサイトの閉鎖を狙い、マイクの情報収集を妨害しようとしたという。
しかし、ビジュアルな犯罪情報に手軽にアクセスできるようになった市民は、もはやそれを手放そうとはしないかった。市民の支援により、市も最終的にはデータの提供に同意して、ウィン・ウィン・ウィンの関係が生まれた。
「それはすばらしい話だね」という皆さんの声が聞こえてきそうではある。だが現実的になろう。どれほどの人がマイク・ミガースキのように、無報酬の仕事に長時間を費やせるだろうか? これは、特異な事例に過ぎないのではないか?
クレイ・シャーキーの意見は違う。彼は2010年に『知的余剰:つながる時代の創造性と寛容(原題の邦訳)』と題する本を上梓した。同書で彼が論じたのは、今日の工業化された世界では、私たちはあらゆる種類の自由時間を手にしているということだった。
しかし、せっかく手にしたその自由時間が「使うものではなく、つぶすもの」になっていると、シャーキーは『ワイアード』誌のインタビューで語った。シャーキーの推計では、1960年生まれの人間がテレビの視聴に費やしてきた時間は約5万時間にも上るという。
「しかし、それをつぶすべき個人の時間ではなく、活用可能な社会的資産だと考えれば、途端に違った景色が見えてきます。世界中の教養ある人々が自由時間を集積すれば――たぶん年に1兆時間ぐらいになるでしょうが――それは新たな資源ですよ」。シャーキーはこれを知的余剰と名付けた。
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