「スポティファイ」日本上陸は、なぜ遅れたか 何度目の正直で日本の音楽業界が変わる?
理由のひとつは、日本がいまだにCDなどのパッケージ商品が売れ続けている「奇跡の国」だからだ。国際レコード産業連盟によると、日本の音楽売り上げは26億ドルで米国(48億ドル)に次ぐ2位(2014年)。そして、パッケージの比率は実に78%に達する(米国は26%)。
CD販売は毎年減少しているとはいえ、いまだに業界の主力商品なのだ。それゆえに、レコード会社やアーティストは定額配信サービスに対して懐疑的だった。

レコード会社との交渉は苦労の連続だった。スポティファイ・ジャパンの野本晶ディレクターは「CD販売の減少を定額配信の増加によって補うことができたドイツなど、海外の事例を説明しても、日本は(CDが売れており)事情が違うと言われてしまうこともあった」と話す。
さらに、最大の問題は、広告や曲の選択ができないことに目をつぶれば、いつまでも聴けてしまうフリープランの存在だった。大手レコード会社からも「タダで音楽を聴かせてよいのか」「アーティストへの収益分配が少ないのではないか」「フリープランがある限り、日本でのサービス開始は無理」といった声が上がっていたのだ。
「フリーミアム」を突き通した
ただし2015年、日本市場は「定額配信元年」を迎える。5月にエイベックスグループとサイバーエージェントの合弁である「AWA(アワ)」、6月にLINE、ソニーミュージック、エイベックスなどが出資する「LINEミュージック」、さらには7月にアップル、9月にグーグル、11月にアマゾンも参入し、サービスが一気に出そろった。
他社の定額配信サービスが始まったことで、レコード会社側の理解も徐々に深まっていった。最終的には「フリープランがプレミアムの有料会員を増やすためにあるんだ、という理屈や条件などを信じてもらえた」(野本氏)ことで、サービス開始にこぎ着けたという。
ようやく上陸を果たしたスポティファイだが、日本市場の攻略は容易ではない。何しろ、日本レコード協会の調査によれば、有料で音楽を聴くユーザー層は全体の32.9%にすぎない。まったく音楽を聴かない「無関心層」も34.6%とかつてないほどに拡大している(2015年度 音楽メディアユーザー実態調査)。先行する各社もダウンロード数こそ伸ばしているが、課金ユーザーの積み上げには苦労しているようだ。
定額配信サービスが広く利用されるようになり、業界はかつてのような盛り上がりを取り戻すことができるのか。音楽業界の未来を大きく左右するであろう、スポティファイの挑戦が始まった。
(撮影:風間仁一郎)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら