猪瀬都知事の驚きの人権感覚
最近、猪瀬都知事がヘイトスピーチについて、記者会見で以下のように発言していたが、その人権感覚と無責任さには驚いた。
「僕もね、見たことないんだけれども、いろいろとそういうところ、新聞とか、ちょっと載ったりしましたね。で、品がない表現ですね、あれは。ただ、デモは届け出して手続きをやれば、できることはできるわけですね。で、人を傷つけたりとかしなければ、とりあえずは合法活動ということになるんですね」(全文はこちら)
たとえば私が「新大久保のヘイトスピーチをしている奴らを絞め殺せ、ガス室に送れ、強姦して皆殺しにしろ」と叫んでソウルを行進し、日本人街で脅迫を続けたら、まず逮捕されるか病院に送られる。ちなみに韓国大使館前で日の丸を燃やしているおじさん数人は過去10年くらい同じ人で、公平を期して言うと、彼も相当迷惑で愚かモノである。さすがに彼でも、「何人を殺せ!」とは言わないが。
しかしながら東京の場合は、不備な法の網をくぐって行う野蛮行為は合法だと都のトップが追認しているようにも聞こえかねない。
最近、東京都町田市の教育委員会が(信じられないことに)市内の学校に通う小学生に配布してきた防犯ブザーに関し、朝鮮学校の児童への配布をやめる決定をしていたという事例をはじめ、行政が差別をあからさまに推進しているかのようにも思える。
ヘイトスピーチに走る構造分析
私はこれを書くことにより、2チャンネルで“祭り状態”になることを知っているが、それでもあえて、罵詈雑言を一身に浴びてでも造られた偏見に脅かされている人たち、特に多感な年ごろの子供たちの盾となりたい。ネットから飛び出てきた人々がヘイトスピーチに走る原因だが、彼らの主張は“反日の在日外国人が日本に寄生して生活保護を不正に受け取るなどの特権を受け、日本人を逆差別している”という荒唐無稽な内容だ。
私は周囲を見て身をもって知っているが、今でこそ実力採用の企業が増えたが、歴史的に在日韓国人が就職や結婚を含めたさまざまな場面で過酷な差別を受けてきたのを知らない親世代はいない。しかし“新大久保でヘイトスピーチしながら走り隊”の皆さんは、もろもろの加虐の歴史に関しては、部分的で怪しげな物語を持ち出し、大きな歴史的文脈と史実を白紙化することで、“在日特権”の虚構を作りあげようとする。
たとえば朝鮮戦争時に来た人の存在を挙げて、太平洋戦争中に強制連行された人の存在を全体否定する。また在日韓国人はかつて就職の機会などで社会的差別が厳しかったので、生活保護を在日外国人も受けられるようになると、人口当たりの貧困層の比率が高くなるのは当然だがこの文脈も目に入らない。
戦前は無理やり日本人にさせられ戦争の最前線に動員され、戦後は無理やり日本国籍を取り上げ軍人恩給が支払われなかったという歴史的文脈から目を逸らし、“在日に特権があり、日本人が差別されている”との憎悪に駆り立てられている。常識的に考えて、右派層が支配する日本で、歴史的に過酷な差別を受けてきた在日外国人が特別待遇を受けているわけがないのだが、的外れな憎悪の前には常識もなしのつぶてだ。
現在起こっているヘイトスピーチの構造と背景を要約すると
1)歴史的な加虐の具体的内容をドイツと違って知らされておらず
2)侵略戦争を否定する右派政治家の発言に対するアジア各国からの当然の反発を “反日だ”と安易に受け止め
3)他国を攻撃する口実や考え方への不健全な需要が高まる中、
4)韓流ブームが腹立たしく、
5)不況も重なり職を失うなど前途が見えない中、不満の噴出先が在日外国人になる、という不幸な構造になっている。
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