宇宙飛行士の”教官”の「伝える技術」 美人インストラクターが、NASAに表彰されるまで

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醍醐の担当は緊急時対応。だからまず絶対に間違えてはいけない操作に、ポイントを絞り込む。ここに手を突っ込んではだめ、このレバーは引っ張ってはいけない、というように。

「そこさえフォーカスすれば、全体は忘れてもいい。思い出すためにポイントに特化した教材を作り、宇宙で見る手順書に『注意』と黄色に色づけしたりして、“思い出す仕掛け”を作ります」

緊急時対応訓練は、日本に訓練に訪れるたび、「今回は火災」「今回は空気漏れ」などケースを変えつつ、確認する場所は同じにするなど、忘れた手順を思い出すように訓練をくり返す。さらに、宇宙に行ってからも定期的に訓練を行う。小学校や中学校で定期的に避難訓練を行うように、身体で覚えさせるのだ。

実際、2011年6月に古川飛行士がISS滞在中、緊急時訓練を行った直後に、スペースデブリ(宇宙ゴミ)が接近。行ったばかりの手順とほぼ同じ手順を踏み、緊急帰還機に避難することに成功している。

宇宙との交信時は、別の「伝える」技術が必要

宇宙との交信担当には、また別の「伝える技術」が必要とされる。写真手前が醍醐さん(出典:JAXA)

醍醐の伝える技術は、もう1つ別の担当分野でも磨かれている。彼女は宇宙で作業をする宇宙飛行士たちと、地上側から交信する交信担当も務めているのだ。

交信担当には、訓練担当とはまた別の「伝える技術」が求められる。

宇宙と地上との交信には、大きな制約がある。ISS―地上間の回線が2回線しかなく、1回線はロシア語用。もうひとつの回線を使ってNASAの2つのセンターと日本、ヨーロッパの交信担当がISSにいる複数の宇宙飛行士たちと交信する。つまり交信が殺到するのだ。

「あまりタラタラと話していると『さっさとして!』とプレッシャーをかけられる(笑)」(醍醐)。

少ない言葉で確実に意思疎通を図らなければならない。しかし短い単語を使えば済むというわけでもない。大事なのは「先を読むことだ」という。

「現在、宇宙飛行士がやっている作業の内容を把握して、あと数ステップ先に困りそうなポイントがあったら、『チェックポイントが来るよ』と早めに伝えるんです」

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