「強いて言えば、アメリカ人よりロシア人のほうが真面目にこつこつ作業するという点で日本人に似ています(笑)。でも人種より、経歴の違いのほうが大きい。例えばルーキー(新人)で初めて宇宙に行くのか、既に宇宙に行った経験があるベテランか。
飛行経験がある宇宙飛行士はポイントを掴みやすいけれど、ルーキーはポイントがわからず不安だから全部聞いてくる。その人がおかれた環境や不安を受け止めたうえで、訓練を提供します」
初めての訓練前、まさかの過呼吸に
今ではシニアインストラクターとして若手を教育する立場にもある醍醐だが、最初からうまく指導できたわけではない。訓練インストラクターは認定されるまで1~2年の訓練を受ける。「きぼう」の技術知識を習得するのはもちろん、訓練はほぼ100%英語で行われるため、語学力も必須。
模擬訓練では先輩インストラクターが生徒(=宇宙飛行士)役になり、あえて変な質問を繰り返すなど悪い態度を取り、インストラクション、つまり「伝える技術」を鍛える。技術、語学、インストラクションなどすべての評価項目に受かるまで何度も試験を繰り返す。
醍醐は大学で航空宇宙工学を学び、博士前期過程を修了。2005年に有人宇宙システム株式会社に入社した。当時は「きぼう」打ち上げ3年前で、宇宙飛行士をどのように訓練するかをJAXAと共に開発していた時期。醍醐はインストラクター認定の勉強と平行して、訓練そのものの開発にも携わった。
博士課程まで学んだ醍醐にとっても、「きぼう」の知識を習得するのは厳しかったという。「きぼう」は数百万点の部品から成り、そのシステムは複雑である。さらに開発の経緯から理解しようとすれば膨大な情報量になる。すべてを宇宙飛行士に教える時間はないし、その必要もない。でも教える立場として、聞かれたことは何でも答えられるようにしたい。
「この機器はなぜここにあるのか、なぜこの形なのか。生徒は何に興味を持ってくるかわからない。訓練の場で頼れるのは自分だけ。生徒役の評価者にひたすら質問され、適切に答えながら訓練を時間内に収めないといけない。擬似的な訓練で鍛えられていきました」
醍醐はひたすら勉強し、最短の1年で資格を取得、指導の現場に立つことになる。ところが初めての訓練を行う2時間前、過呼吸を起こしてしまう。
「すごく突っ込んで聞かれるんじゃないかと思う一方で、『その情報いらない』とか『無駄だ』と言われるんじゃないか、とかいろいろ考えすぎて、緊張してしまったんです」
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