キヤノン、タイ工場のいま 大洪水から1年半、現地トップを直撃
――復旧後の洪水対策は。
タイ政府は中長期的な洪水対策として、ダムや放水路、運河などの建設、植林といったグランドデザインの国際コンペを行っていますが、時間がかかっているようです。
しかし、短期的な対策は進んでいます。タイ政府は洪水の際に対策の意志決定の遅れの要因となった縦割りの組織を改編し、治水管理を一元化しました。また、ウェブによる河川情報の共有も進んでいます。
工業団地レベルでは、ハイテク工業団地では独自に設置した防水堤が昨年9月に完成しています。この防水堤は11年と同水準の洪水が起きても50㎝以上の余裕を持ち、浸水することはなくなっています。
工場としても、ラチャシマ工場に金型などを移して万が一の事態でも生産を継続できるようにしてあります。そのほか、一階にあった設備を2階に上げたり、2階に移せない分電盤などは位置を高くしたり防水壁で囲ったりといった対策も行っています。
部品の調達についても、複社購買で洪水被害を受けない取引先にも分散させています。
工場は移すより、復旧するほうが効率的だった
――ハイテク工場の移転は考えなかったのでしょうか。
それは考えませんでした。ハイテク工場は20年オペレーションしてきています。工場が移転するということは人が移るということになります。11年の生産ピーク時はハイテク工場だけで9000人の規模でした。それだけの規模を移す、もしくは辞めてもらって新しく人を集めるというリスクに比べると、工場を復旧させる方が効率的です。
洪水被害のあった際も、近隣に住むタイ人の従業員は自分たちの自宅が浸水しているさなか、工場で半身を水につかりながら復旧作業に取り組んでくれました。ここまでしてもらえるのは長年勤めている従業員のキヤノン工場に対する強い思いがあってこそだと思っています。
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