人間より有能なAIの存在は「幻想」に過ぎない 今の浮ついたブームは再度失敗を招く

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──新世代コンピュータの資格がなかった……。

本当の意味の新世代コンピュータは人間の知恵をうまく集めるもののはずだった。それが今のインターネット。多くのパソコンが相互に連携する。パソコンはシンプルなマシンであり、ハードウエアにはベーシックな機能だけを持たせ、ソフトウエア・インターフェースに力点が置かれる。ところが、第5世代コンピュータのプロジェクトは、正反対のものを作ろうとした。なぜそうなったか、反省が必要ではないか。

西垣 通(にしがき とおる)/東京大学名誉教授。工学博士。専攻は情報学・メディア論。1948年生まれ。東大工学部計数工学科卒業。日立製作所に入社。コンピュータソフトの研究開発に携わる。その間、米スタンフォード大学で客員研究員。その後、東大大学院情報学環教授などを経る。著書に『デジタル・ナルシス』など(撮影:尾形文繁)

──そして、米国発のビッグデータ時代が到来しました。

インターネットにあるたくさんのデータを上手に統計処理するという発想だ。これが第3次AIブームの基盤。だが統計処理は、データ集団の特性は示すが、個別データの扱いでは、つねに論理的に正しいわけではない。コンピュータ処理の長所は、何より論理的正確性だ。統計処理では正しくない答えも出てくるから、必ずしも人間より頭のいいAIができるとはとてもいえない。

第3次AIブームの「立役者」はビッグデータを使った深層学習。このパターン認識技術そのものは有効だし、発展させたい。ただ、それで人間よりも頭のいい機械ができる保証はない。汎用AIや、何でもできる超AIができるわけではない。

AIの活用には、もっと大切なことがある

──コンピュータが感情を持てるとも。

ロボットの顔に感情があるような表情を持たせることはできる。しかし、だからといって、本当に感情を持ったといえるのか。まね事をしているにすぎない。いわば凝ったからくり人形だ。

AIの活用には、もっと大切なことがあるだろう。たとえば、みんなの知恵を合わせていく集合知との連携だ。そうすればイノベーションも出やすい。機械に問題解決を丸投げして、人間は何もしなくていいという安易な発想は許されないはず。その一方で、AIが仕事を奪うから怖い、などと愚痴をこぼすのはおかしい。やり方は変わるが、人間の仕事はなくならない。AIのメンテナンスなども重要な仕事だ。

──欧米には超AIもありとの見方があります。

一神教という文化、伝統の産物といえるだろう。「はじめにロゴスありき」で、神の知は論理的に絶対なのだ。不完全な人間の知は神の知に向かって進んでいく。これが進歩だという考え方が根幹にある。それで欧米には、AIが開く未来はすばらしいと手放しで言う人がいる。

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