「レイバン」から農家。地方で家業を継ぐ難しさ 武将の末裔が育てる「菊」

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渥美半島の先端に位置する田原市は、温暖な気候を利用して農業が盛んだ。昼間に車で走るとキャベツ畑の緑が延々と続き、夜になると真っ暗な中に明かりのついた温室が浮かび上がる。電照で菊の生育を調整する「電照菊」を育てているのだ。

武将の末裔が菊を育てる

この田原市で戦国武将の末裔が菊を作って売っている、と東京の友人が教えてくれた。荒木菊栽培農家の長男として生まれた荒木良之さん(36歳)は、学生生活を仙台とロンドンで過ごし、2年間ほど東京で働いた後に、30歳を節目にUターンして家業を継いだ。東京での会社員時代は主にマーケティングを担当していた荒木さん。母方の先祖が大谷吉継だったと思い出す。

大谷吉継といえば関ヶ原の戦いで敗れた石田三成の盟友。領国は今の福井県敦賀市にあったが、敗戦後に一族が渥美半島に落ち延びたらしい。愛知県では信長・秀吉・家康の「三英傑」にスポットが当たりがちだが、「敗軍の将の親友の末裔」と言われると、むしろ情緒を感じる。

出荷直前の菊畑。菊の花はつぼみの段階で卸している

荒木さんは昨年11月に石田三成の供養祭(滋賀県長浜市)に出向き、「友情華贈呈」と題して黄菊を三成直系の子孫に手渡した。歴史ファンを含めた参列者から拍手を浴びたという。今後も、戦国武将ゆかりの菊を打ち出していくという。伝統的な農業に、ルーツ・戦国・友情といった物語的な要素を加えて差別化を図る試みだ。

荒木さん本人に会ってみると、小柄ながらもがっしりとした体つきには武将の片鱗を感じとれなくもない。しかし、「うんうん」「じゃんねー」の愛知の方言を多用する穏やかな話しぶりで、趣味はギターと英語とカフェ巡り。中性的な印象を受ける末裔である。

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