家庭養護が必要な子と里親の知られざる現実 児童養護施設などで暮らす子が4万6000人

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さきほど申し上げた男の子は20カ月、次に高校生の女の子を30カ月預かりました。彼らは盆と正月には「ただいま」と言ってうちに帰ってきてくれます。たった数十カ月だけなのに、彼らの人生に意味ある存在として入り込むことができたんです。自分が生きている意味がモノクロからカラーに変わったぐらいの衝撃でした。

次の世代の人生にポジティブな何かを刻むことは、人間として本能的な喜びなのではないでしょうか。法的、生物学的な親でなくてもその喜びは得られます。

――家庭で育つこと、育てることは人間の成長にとってそれほど大事なのですね。

私たちは親からしてもらった「当たり前」のことをほとんど覚えていません。だから、家庭の中でも無意識で振る舞っています。でも、それが当たり前ではない子どもたちがいるんです。

たとえば、おねしょをするたびに母親の恋人から殴られて来た子どもがいます。大人の男性が近くで頭をかくだけでも、殴られると勘違いして怯えるのです。その子がおねしょをしてしまったとき、「大丈夫。心配すんな。大人になったら必ず止まるから」と声をかけてあげる。何でもないことですよね。でも、この繰り返しの経験が彼の未来を変えていくことになります。

子どもはいずれ大人になります。自分の家庭を持つ人もいるでしょう。そのときに、私たち里親がひとつのロールモデルとなるのです。

ある里親家庭ではこんな話を聞きました。預かった少年が、ごく普通のゆで卵に大感激をしたそうです。「おばちゃんのゆで卵は絶妙や!」と。聞けば、中途半端なぬくさに感動したようです。市販のゆで卵は冷たいか熱々かのどちらかですよね。普通のぬくさを自分のために温めてもらったように感じたのかもしれません。

自分の子ども期をきちんと振り返る

自分が子どものときにうれしかったことや傷ついたことを振り返ることが大事(撮影:ヒラオカスタジオ)

――どんな人が里親に向いているのでしょうか。自分の子どもを育てた経験がないとダメですか。

率直に言えば、実子の養育経験があるに越したことはありません。しかし、それを必須条件にはしていません。

いちばん大事なのは、自分の子ども期をきちんと振り返ること。人はもれなく子ども期を経験しています。自分が子どものとき、どんなことがうれしくて、何に支えられ、どんなときに傷ついたのか。すべての経験が里親を助けてくれるのです。その意味では、自らが親からの虐待経験のある大人でも里親になることは可能です。

興味はあるけど私には無理かも、と熟慮してくれる人こそ里親に向いています。完璧な子どもがいないのと同じく、完璧な里親などはいません。必要な部分は私たちがサポートします。

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