ネット通販の「送料無料」は当たり前じゃない 回り回って痛い目にあうのは誰か?

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──楡さんが在籍していた会社の例を先ほど挙げてくださいましたが、それと同じことを日常的に行っているのが、スイフト・ジャパンであり、そのモデルになった通販会社なんですね。

配送料無料が当たり前だと思ったら大間違いなんですよ。それを可能にするためにスイフトのモデルとなった会社は、巨大な倉庫を建て、安い労働者を大量に投入して休む間もなく注文品をピックアップさせている。

たとえば一冊の本を宅配便で届けてそこから利益が上がることは、普通考えられないでしょう。大赤字の商売です。だけどなぜそれが商売になるかといえば、配送コストを安くして、労賃を安くして、ということをしているからです。そうでなければ本来、ビジネスになるわけがない。だからどれだけの労働者が搾取されてああいうサービスが可能になっているのかということを、私たちはもっと真剣に考えて、思いをめぐらすべきだと思います。

なぜ赤字で平気なのか

─スイフト・ジャパンは赤字経営ですね。

モデルになった会社のビジネスモデルは、すべての流通を制覇してからたっぷりお金を回収しましょうというものです。彼らの会社に資金を投じている投資家は、その時がきたらたっぷり見返りをいただきましょうという目論見のもとで金を投じています。だから赤字を出しても平気なんです。

──特にアメリカの投資家は配当金目当てで株主の力が強く、目先の利益に追われて企業が長期的展望を立てにくいと聞きましたが。

私も過去の作品のなかでそのようなことを書きました。つまり新規事業なんて余計なことはするな、そんな金があるなら配当に回せと株主が言うんですね。企業側が、これをやっておかないと会社の将来が危ういと反論しても、そんなことは知らない、危なくなったら金を引きあげりゃいいんだって考えてるんですね。

──この会社は例外なんでしょうか。

それは、将来がものすごく有望だからです。みなが第二のアップルになると思っている。その時、株価はとてつもない額に跳ね上がる。だからがめつい株主連中も我慢しているのです。

──世界の流通を制覇するとは帝国主義的な考えですね。もしこれが実現してしまったら、どのような未来になるのでしょう。

そこに現れるのは、誰も幸せにならない社会ですね。人ってすごく愚かなんですよ。地元の商店街が壊滅したのは、スーパーができて、皆が商店街を見捨てたから。だけど今の日本の地方を見ればわかるのですが、過疎高齢化が進んでいけば大手資本のスーパーだって経営が成り立たなくなるわけですから、閉店してその土地からいなくなってしまいます。すると買い物自体が困難になってしまう。

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