ネット通販の「送料無料」は当たり前じゃない 回り回って痛い目にあうのは誰か?

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──しかし、そのいちばん強いはずの運送業者の状況が、現実でも悪化しているようですね。

楡周平氏

コンゴウ陸送のモデルとなった大手運送業者は、全国を網羅した宅配便の配送システムを完備しています。つまり自社でインフラを作ってしまったわけです。そうすると固定的な維持費がかかってきます。そこで、利益を上げるために取扱量を増やさなくてはいけなくなる。物を運ぶ商売って、空気を運ぶより少しでも金になった方がマシだという考えが根底にあるんですね。そこで営業の問題がでてきます。

私も会社勤めをしていたからわかるのですが、営業以外のセクションの人間からみると、なんでこんな仕事を引き受けてくるのかということがよくありました。営業マンにはノルマがあり、上司から売り上げを上げろと散々言われる。そうすると利益率を考えずにノルマの達成のみに目が行くため、売り上げを確保するために大口顧客にとって無茶苦茶な好条件を出してしまう。そういうケースがすごく多いと思います。

――営業マンにとってはノルマ達成が至上命題でしょうからね。

私がいた会社も、昼の12時までに発注すれば夕方6時までに配送するなんてことを当たり前にやっていました。配送専用車両を契約しているんだから、使わないと損じゃないかという考え方で。しかしそのために、物流倉庫の中ではものすごい無駄が生じます。発注が読めないので人を張り付けておかなければならないし、急いで物を集めなければならない。イレギュラーな仕事が増え、倉庫内の作業効率が落ちる。

それにエリア内の注文が少なければ配送コストがべらぼうな金額になる。そういう間接的なコストの意識が欠如している営業マンがすごく多くて、分析してみると売り上げは上がっても収益にはまったく結びついていないってことが多くありました。

それと同じことが、いまのネット通販の世界で起こっているのではないかと思っています。

運送業界が陥るジレンマ

──コンゴウ陸送もイニシアチブをスイフト・ジャパンに握られています。

荷主と荷受人の力関係は、ふつう荷主の方が強い。顧客ですからね。そして荷受量が増えるにつれ、そのバランスがどんどん崩れていくんです。どんな商売でもそうですが、大量に扱うからもっと安くしろ、うちがお宅から手を引いてもいいのかという話になる。そうすると売り上げは上がっても利幅が下がっていくんですね。

もうひとつ、従業員採用の問題もあります。長距離運転手のなり手がおらず、年齢も高齢化しています。大手の会社で、正社員として募集しても人が集まらないといいます。時間までに運ばなければならないという制約があり、それが身体の負担となるので嫌がられる。荷物があっても運ぶに運べない、という時代がもうすぐ来るでしょう。

配送員も、私が住んでいる地区では外国人労働者が増えています。これはターミナルの仕分けや荷積みに携わる従業員も同様です。とにかく管理部門も含めて人材が不足している。だから必死になって大きなターミナルを建て、機械化して、人を使わない仕組みを考えて実行しています。しかしそのためには物流を増やさなければいけない。すると取引先に配送価格を下げられる、というジレンマに陥る。

──負のスパイラルですね。

ちゃんとした対価が支払われないと人は集まらなくなります。長距離トラックの運転手の賃金は、ここ何年か下がりっぱなしです。将来の賃金が上がっていくのなら、なり手がいないわけじゃないと思います。

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