ネット通販の「送料無料」は当たり前じゃない 回り回って痛い目にあうのは誰か?
また、お金というものは使わないと回らないものだということも考えないといけません。経営者も内部留保ばかり増やしていないで、従業員にもっと還元する。派遣社員の賃金を上げる。そうやってもっと先が見える社会を作ってあげないと、回り回って痛い目にあうのは、自分の会社であり、自分の息子であり、この社会を支えている次の世代だよ、ということを真剣に考慮する時期に来ています。
単純な発想だからこその実現性
──ネット通販に対抗するためのアイデアが本書の読みどころです。これから読む方の楽しみを奪わないために詳しくは述べませんが、時代がぐるっと一回転したような気にさせられました。
私は経済小説のなかでいくつものビジネスモデルを提案していますが、どれも発想は単純なんです。単純だからこそ、このアイデアも現実的で、実際にやれると思っています。このアイデアを生かせば、配送費のダンピングも避けられ、収益率は上がります。さらに長距離輸送のドライバー不足を解消することもできる。荷物の配送が近距離で済むので、それなら運転手になろうという人も増えてくる。翌日配送にも無理なく対応できる。大きな施設も必要ないから、コストもかかりません。
──主人公が故郷の母親を訪ねたときに目にしたあるサービスが、ネット通販の鼻を明かすアイデアのヒントになったのは痛快でした。
とはいえ、これもあくまでも中期的なビジネスモデルなんですけどね。長期的に見ると、日本は人口が減っていくので内需依存型の産業はすべて苦しくなります。しかし先述したように、物を運ぶ者がいちばん強い、アナログの極地がいちばん強いという事実は変わりません。
日本の運送業、特に宅配便はものすごいシステムとノウハウを持っている。作中で披露したアイデアをもとにして世界に進出したら、日本を引っ張る成長産業になると思っています。たとえばアメリカ。あそこは移民も多く人口が減っていない。アメリカで全国展開をしているウォルマートなどの量販店の商圏単位で同じことをやれば、すごいビジネスになると思います。
運送業界を見ていると歯がゆくて仕方がないんです。自分たちが大きな武器を持っていることに気がついていない。大きなビジネスをやれる力を持っているのに、なぜネット通販の下請けをやっているのか。彼らが持っているノウハウと技術力を海外に持っていけばすごいことになるのに。運送屋であることをとことん突きつめていくだけで、それ以外のビジネスの広がりがない。覇気と想像力が欠けているとしか思えません。いや本当に歯がゆいです。
──『プラチナタウン』で、老人向けのテーマパークタウン構想を書かれていましたが、似たようなことが国のプロジェクトとして動きだしましたね。
発表から十年経って、『プラチナタウン』は現実の話、それも国策事業になろうとしています。本書のビジネスモデルも、ぜひ現実になってもらいたいと思っています。
(取材・文:西上心太、撮影:菅原孝司/『本の旅人8月号』より)
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