永久に日銀が国債を保有し続ければ供給された紙幣はずっと日本経済を循環し続ける。ヘリコプターで空からばらまいた紙幣を回収することが不可能であるのと同じだ。現在の建前では政府は将来財政黒字を出して国債を償還することになっているが、ヘリコプターマネーではその必要はない。
一見、誰も費用を負担することなしに、政府が資金を手にすることができるように見える。だが、そんなうまい話はなかなかない。
現金取引だけが行われている社会を考えてみよう。誰かが買い物をしようと思うと、まず、現金が必要になる。買い物に使用された現金は、それを受け取った人がまた支払いに使うということが繰り返され、何度も使われる。現金が1年間に使われる回数の平均(貨幣の流通速度)がほぼ一定だとすると、経済全体で行われる経済取引と現金の量の間には比例関係があるはずだ。これが「貨幣数量説」の最も単純な説明である。
経済が拡大していくと、それに合わせてより多くの現金が必要になるので、日銀は追加で紙幣を供給することになるが、この分の紙幣が経済から回収されることがなければ、ヘリコプターマネーだと見ることができる。
90年の2倍以上の現金、でもタンス預金に
現実の日本経済を見ると2016年6月末時点の現金(紙幣と硬貨の合計)は、100兆6587億円で、名目GDP比は20%程度となっている。
1990年代にバブルが崩壊して金融緩和が続くまでは、企業や家計が保有している現金は日本の経済規模の6~8%程度だったから、かなりの上昇だ。
日本経済の現在の規模=名目GDP500兆円に対して、貨幣の使用回数が1990年代以前と同じ状況であるならば40兆円の現金があれば十分だが、現在はこの2倍以上の現金が出回っている。100兆円の現金の過半は、経済的な取引に使われずに、いわゆる“タンス預金”として引出しや金庫の中で眠っていることになる。
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