たとえば5年後に名目GDPが1000兆円になるような、実質GDPとGDPデフレーターの年平均の伸び率の組合せを考えてみる。GDPデフレーターはGDPの物価指標であるので、実質GDPの成長率が高ければ物価上昇率は低くてよいことになる。
この間の実質GDP成長率が平均で年率2%ならGDPデフレーター上昇率は年率12.5%必要だ。しかし、実質成長率が平均で年率5%でもデフレーター上昇率は年率9.3%必要で、年率7%という高率の実質GDP成長率が実現したとしても、デフレーターの上昇率は年率で7.2%にもなってしまう。
どれほど生産性の伸びを高めても一定期間の実質GDPの伸びには限度があり、ハイパーインフレとまでは言わないが、第一次石油危機以来、日本経済では経験したことのないような高い物価上昇を甘受しなくてはならないだろう。
ヘリマネは後始末できないもの
さて実際に日本銀行が供給しているおカネは、現金(紙幣と硬貨の合計)の約100兆円だけではない。銀行が貸し出しを増やせるように、日銀に保有している当座預金の口座を通じて供給している約300兆円の資金も含む。現金とこの当座預金の合計がマネタリーベースである。2016年6月末のマネタリーベースの残高は約404兆円だ。デフレ脱却後にはマネタリーベースの名目GDP比も昔の水準に戻るとすれば、300兆円を超える資金を吸収する必要があることになる。
銀行は預金の一定割合を日銀の当座預金に常時預けておく義務があるので、この準備率を大幅に引き上げれば、日銀が保有する国債を売却しなくてもマネーストックを減少させてインフレを抑制することは原理的には可能だ。超過準備として日銀に預けられている資金が貸出に回ってマネーストックが大きく増加しないようにするのである。現在の日銀当座預金約300兆円の内で、法定準備に対応する所要準備額は9兆円程度に過ぎないので、準備率の引き上げだけで対応するには、準備率を現在の30倍程度に引き上げる必要がある計算になる。
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