個々の消費者から見ると、これは半々の確率でどちらかの商品をゲットできるようなクジ、と考えられる。このとき、リスク回避的な消費者は「商品AとBの平均価値(期待値ともいう)」である5000円よりも少ない金額しかこのクジには払わない。
すると、クジを引いた二人分の支払額を合計しても1万円に満たないため、売り手は損をしてしまう。結局、普通に販売するほうが儲かるのである。リスキーな商品にあまりお金を払いたくない、というのは直感的にも納得がいくストーリーだろう。
ちなみに、金銭で計った商品の平均価値からクジに対する支払金額を引いた差、つまりリスクの対価を「リスクプレミアム」と呼ぶ。クジや福袋のように、得られる商品をあえて不確実にして売る場合には、このリスクプレミアムの分だけ売り手にとってはマイナスが発生してしまう。
福袋商法に、普通に販売する以上の旨味があるとすれば、このリスクプレミアムを上回るようなメリットがなくてはならない。では、そのメリットとは何なのだろうか。
「不確実性」に隠されたメリットはあるのか?
実は、この問いに対する定説といえるような学術的な答えは、まだ知られていない。しかし考えられる一つの可能性として、在庫整理のしやすさがある。
もしも福袋の販売の代わりに通常のセールを行ったとすると、消費者は、相対的によりお買い得なアイテムに殺到するだろう。結果的に、一部の人気商品は売り切れても、そうでないものについては在庫が残ってしまう危険性が高い。
一方で福袋の場合には、中身が見えないという特徴のおかげで、アイテムを選んで買うことができない。そのため、特定のアイテムだけが売れる(/売れ残る)という心配は無用だ。
買い手にとってもメリットがある。早い者勝ちのセールやバーゲンで、人気商品を獲得しようと思えば、われ先に、と急がなければならない。だが、中身を選びようがない福袋には、この手の競争がないのだ(ただし、一部のお店では福袋そのものが大人気で、手に入れるためには長い時間並ばなければならない)。こうしたプラスの効果は、不確実性に伴うリスクプレミアムのマイナス分を打ち消すだけの大きさになるのかもしれない。
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