子をMITに入れたいならば 家庭と小学校の教育はいかにあるべきか

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宇宙工学は自然への謙虚な反抗

1989年、僕が小学校1年の頃、あるセンセーショナルなニュースがあった。JPL(NASAのジェット推進研究所)が作ったボイジャー2号というNASAの無人宇宙探査機が、12年をかけて太陽系の果ての45億km彼方に浮かぶ海王星にまで着いたというニュースだ。

ボイジャー2号が撮影した海王星(クレジット:NASA/JPL)

父は毎週末、テレビにかじりついてボイジャーのニュースやそれを特集した番組を見ていた。そして僕も父の隣に座り、父と興奮を分かち合った。

人類がその時はじめて間近に見た海王星は、透き通るような青い色をした、美しい星だった。その青は地球の海の色とも空の色とも違っていた。モルフォ蝶の青い羽のように神秘的で、青の時代のピカソの絵のように孤独だった。6歳の僕の心に焼きつき、その後の人生を支配する核となったのは、あの青だったのだ。

あの時に僕が味わった興奮を伝えるためには、当時父が僕にしてくれた次のような説明をすれば足りるだろう。今、地球をビー玉の大きさに縮小し、あなたの掌の上に置いたと想像してほしい。東京スカイツリーはたった0.00075 mmの高さだ。飛行機はビー玉の表面からわずか0.01 mmの高さを飛んでいる。国際宇宙ステーションの高度ですらたったの0.5 mmだ。

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地球をビー玉の大きさに縮めたときの各惑星までの距離と、ボイジャー2号の探査の軌跡

月までは45 cm離れている。太陽は180 mも先にある。しかし宇宙はまだまだ広い。接近時の木星までの距離は750 m、土星は1.5 km、天王星は3 km、そして海王星までは5 kmもあるのだ!宇宙がどれだけ広いか、そしてそれと比較して僕らの世界がどれだけ小さいか、実感を持っていただけただろうか。

そして想像してほしい。あなたの掌の上の小さな青いビー玉から、人間が埃の粒ほどの小さな宇宙船を飛ばし、それが5 kmも先に置かれた青いゴルフボールまで正確に辿りついて、写真やデータを送って来たのだ。

宇宙工学とは、あまりにも矮小な世界に閉じ込められた人類の、偉大な宇宙に対する謙虚な反抗なのである。僕の将来の夢が定まったのはこの時だった。ボイジャーを作ったJPLで24年後に自分が働くことになるとは、まだ思ってもいなかったけれども。

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