エリートビジネスマンが仏教に集うワケ ビジネススクールの教壇に坊主が立つ日

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社会の価値の中心が経済にあるうちは、仏教がどんなにいいことを言っても、結局のところ娑婆で重要なのは「儲かるか、儲からないか」の話です。そういう時代に仏教ができることといえば、「儲かるか、儲からないか」の世界の中で息が詰まりそうな人々の心に、ひととき清涼な風を吹かせることくらいです。

社会の変化と共に仏教の地位も変わり始めた

しかし今、社会が仏教に求めている役割は、以前までのそれとはまったくレベルの違う重要性を帯びているように感じます。いわば、マトモな社会のど真ん中に据えられるべき、人間性を育む「こころ」の領域の主軸として、仏教がその役割を果たせるのではないかという期待です。茶道や書道と同列の教養科目としてではなく、ITや金融などと並列してもおかしくない基幹産業として、「仏教」が注目されているということです。

手前味噌になりますが、たとえば、私たちが開いている「未来の住職塾」という僧侶向けの講座に最近、井出悦郎さんという新たな専任講師が加わりました。私の学生時代からの親友である井出氏は、これまでお寺や仏教とはまったく無縁の人生を送ってきて、最近までコンサルティングファームで働いていたバリバリのビジネスマンです。その彼が、コンサルティングの仕事として大手企業の人材開発プログラムなどに携わっているうち、今の企業に本当に必要なのはトップリーダーに不可欠な人格を磨く方法論であることに気づき、人格を磨くメソッドとしての仏教に惹かれるようになりました。

ビジネスの成功の分け目は「人格」の時代に

私の回りの友人たちに限っていえば、社会におけるカネの価値自体がどんどん下がってきており、カネで人を動かせる時代が終わりつつあることを感じます。特に、やる気も能力もあって、どこへ行っても仕事に困ることなどないであろう人たちほど、単純にカネで動くようなことはなくなってきた。

カネは相変わらず重要ではあるけれども、絶対ではないし、最優先でもない。それよりも、本当にやりがいのある仕事を、本当にやりがいのある仲間ともにやることを、多くの人が望んでいます。そうなるともはや、人を動かすのに最も重要なのは、カネでもポストでもなく人格、人間としての魅力ということになります。

もちろん、新しい発想でどんどん道を切り開く能力も重要ですが、それだけでは不十分。先の見えない時代の中で、色々な苦楽や失敗を伴いながらも集団として常に本気で物事に当たるには、リーダーにブレない価値観や人間としての信頼感が担保されていないと、メンバーは安心してついけていけません。おそらく明治のリーダーたちが大きな物事を成し遂げられたのも、彼らが武士道の倫理観とかをきっちり基礎に置きながら、果敢に新しいことにチャレンジしていったからでしょう。

ビジネスにおける成功が人格で決まる。十年・二十年という短いスパンで見ると、新しいトレンドなのかもしれません。しかし実はもっと長い目でみれば、商売の成否が人格で決まるというのは、むしろ昔から言われ続けてきたことでした。

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