フィリピン「親中大統領」は、害悪をバラ撒く 日本にとっても深刻な問題になりかねない

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かつて米国は、フィリピンにおいて空軍のクラーク基地と海軍のスービック基地を使用しており、ベトナム戦争時、これらの基地は重要な役割を果たした。

しかし、1991年4月のピナトゥボ火山の大噴火をきっかけに、米国は火山灰で埋まったクラーク空軍基地の放棄を決定する一方、スービック海軍基地については10年間の使用期限延長を要望したが、フィリピン側は拒絶し、両基地は同年11月、正式に返還された。

その後、事態はまた変わってきた。南シナ海の問題が発生するに伴い米軍基地はやはり必要だという考えがフィリピンでも強くなり、親米的な現アキノ政権下で2016年3月、フィリピンの空軍基地5カ所を米軍の拠点とする合意が成立し、それ以来利用開始のための準備が進められていた。海軍基地の利用についても協議が行われる可能性があると言われている。

同岩礁とスービックはたがいに向かい合う形で位置しており、その間の距離は300キロに満たない。中国の艦艇が今も同海域に居座っていること自体、かなり刺激的だろうが、中国が南沙諸島でしたように埋め立て工事や基地建設をすれば、そのインパクトは米国にとっても強烈なものとなるだろう。

日本にとっても深刻な問題になりかねない

ドゥテルテ新大統領は、アキノ大統領の親米路線を否定し、中国との関係も重視したい考えを明確にしている。とはいえ、米国との関係は結局無視できないという厳然たる事実がある。その中で、「中国にもよい顔をする」のは簡単なことでない。

問題はフィリピンの悩みにとどまらない。南シナ海において拡張的行動を続ける中国に対し、米国は関係諸国との連帯を重視し、強化しようとしており、他方、中国も味方を増やそうと懸命になるなど、両国は競い合っている。

このような状況の中で、フィリピンの動向は米中両国の立場に強く影響を及ぼしうる。だからこそ、中国はすでにフィリピンへの働きかけを始めているのだ。米国も自国の利益が損なわれると判断すればフィリピンに強く当たってくる可能性がある。

日本にとっても深刻な問題が起こる可能性がある。中国は南沙諸島における現状を恣意的に変更し、国際法にも違反する疑いの濃い行動を行っているが、同時に、尖閣諸島など日本の領海・接続水域においても挑発的な行動をとっている。これら二つの海域の問題は密接に関連している。つまり、スカボロー礁をめぐる情勢変化はただちに尖閣諸島にも及んでくる。フィリピンの新政権の下で不用意に中国を勢いづかせるようなことがあってはならないのである。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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