ドゥテルテは、国際仲裁裁判だけでは南シナ海問題は解決できず、中国と話し合う必要があるという考えも示している。もっとも、ドゥテルテが主張しているのは中国とフィリピンの2国間協議でなく、さらに関係国が参加する多国間の話し合いであり、それは中国が嫌っている。
発言全体を見れば、ドゥテルテは中国について辛口のことも、比較的理解を示すことも言っており、アキノ大統領が「米国との協力」を最優先したような明確な方向性、原則は今のところみえてこない。
中国はドゥテルテ政権誕生を歓迎
中国は、仲裁裁判の結果が出ても中国は拘束されないとしてボイコットする姿勢を見せている。しかし、実際にはかなり神経質になっており、王毅外相は東南アジア諸国に対して中国の立場を支持するよう懸命に働きかけている。
そんな中で発足するドゥテルテ政権に中国は期待しており、大統領選挙後さっそくドゥテルテに祝電を送り、「中国とフィリピンの近隣友好関係と互恵協力を維持・深化することが両国指導者の共同の責任だ。両国が共に努力し、中比関係を健全な発展の軌道に戻したい」と呼び掛けた。「アキノ政権は問題だったが、ドゥテルテ新政権は中比関係を健全な軌道に戻せる」と言っているのだ。
さらに中国は6月8日、フィリピンに対して「裁判手続きを直ちに停止するよう促す」との声明を発表した。新政権の発足までまだ3週間以上もある時点であったが、明らかにドゥテルテに対する要求だろう。中国との協力関係を進めるか否か、ドゥテルテに踏み絵を踏ませようとしたのだ。
一方、ドゥテルテは習近平国家主席からの祝電を受け、「偉大な国家主席から祝電をもらって光栄」と素直に歓迎の意を表明した。ただ、その際に習近平の肩書を言い間違えるなどしたことで、外交には不慣れなことを露呈したとも言われている(6月2日付台湾「聯合報」)。この一事を見ても、南シナ海問題については中国のほうがドゥテルテよりはるかに老獪であり、新政権の対中外交には不安の影がちらつく。
米国との関係については、ドゥテルテは大統領選挙後、あらためて「長年の同盟国である米国に依存することはない」と持論を繰り返している。そのため、「中国や南シナ海をめぐる問題への対応で米国からの自立を一段と図る姿勢を示した」と報道された(5月31日、ロイター電)。
このような発言はフィリピン国内では大受けするだろう。しかし、フィリピン軍はアジアで最弱の軍の1つであるとも言われるくらいであり、「米国からの自立」を実現するのは、とくに安全保障の面では至難の業だ。米軍に頼らなければ、スカボロー礁でフィリピンの権益を維持することなどできない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら