では、国税庁はこの移転をどう見ているのか?本社のこの部門の社員が400人の内、約40名の社員がシンガポールでオペレーションをするとしている。だが別にオペレーションだけなら東京でもできるはずだ。
日本の税務当局が、ビジネスの機能が日本にあるのに、海外の税制優遇を簡単に認めるとは考えにくい。そこで、税制メリット以外の理由を説明しているようにも見える。
たとえば、同社は最近数年間、南米などで大型の鉱山権益を相次ぎ獲得している。そこで、前出のように、本社機能の移転によって、素材需要が拡大するアジア新興国などで顧客開拓を加速する、との説明をしているのだ。
ビジネスのグローバル化が、発展目覚ましいASEANの一大拠点・シンガポールに必然的に本社を移転させる。同時に国税への言い訳の材料としているようにも見えるのだ。
産業界の空洞化は止められない
今や、成長著しいアジア新興国などに攻め込もうと主要部門の本社機能を海外移転させる日本企業が増え続けている。商社以外にも主要部門を海外移転する動きが目立つ。シンガポール政庁は次々に税制優遇制度を世界に対して発信している。そのメリットに後押しされる形で、海外移転を決断する企業の数が加速してきた。
たとえば、三井化学は11年春に自動車向けの樹脂改質材の事業部すべてをシンガポールに移管し、研究開発部門も新設した。HOYAも11年にはオーナー社長ごとシンガポールに移った。またパナソニックは今年4月から調達本部機能をシンガポールに移管し始めた。アジア生産の拡大を背景に部品の現地調達が増加しつつあるからだ。12年度は調達額の約5割をアジア・中国で占める見通しで、その結果、日本の産業界の空洞化が進んでいくのは自明の理である。
三菱商事の主力部門が進出するのなら、他の総合商社を始め、専門商社も進出するはずだ。この現象は両面から分析することができよう。
まずプラスの要因は、利益を求める要素だ。
実際に立ち行かなくなってきた日本国内の産業界の空洞化は、商社の存在をも直撃し始めた。モノづくりが海外に出れば仲介業務を生業にしている商社も進出を考えざるをえない。
海外、特にASEAN諸国の成長が著しいから当然、利益を求めて販売拠点を現地に移転する事は自然の流れである。
一方、マイナスの要因は経費削減に迫られての必然的な移管である。いわゆる「日本の七重苦」で説明できる。その中でも、高すぎる法人税が企業の国際競争力を直撃しているのだ。進出する企業は、これ以上日本にいても高すぎる法人税が安くならないと判断したのではないか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら