問題は、円高になったメカニズムだ。これは、フローの変化ではなく、ストックの変化によってもたらされた。そしてこのプロセスは、10年前の教科書では理解できない。
日本でストックが無視されていたわけではない。仮に証券化商品を日本の金融機関が大量に保有していれば、危機が波及する。そこで、リーマンショックが起きたとき問題とされたのは、「日本の金融機関は証券化商品に投資しているか?」ということだった。それはほとんどないと分かったので、「日本は大丈夫」ということになった。与謝野馨財務相(当時)の「蜂が刺した程度」という発言が、当時の日本の雰囲気を代表している。金融危機は「対岸の火事」と見なされたのである。円高をもたらしたアメリカ金融市場の変調を把握できなかったのだ。
日本の輸出産業は、このとき致命的な打撃を受けた。金融危機によって世界で最も大きな打撃を受けたのは、日本の輸出産業だったといってよい。ある意味では、アメリカの金融機関よりも深刻な打撃を受けた。
CDSという魔物がアメリカ経済を破壊?
金融危機が日本に波及したメカニズムは、証券化商品の保有を通じたものではなく、為替レートを通じたものだった。そして、それは円キャリーの「巻き戻し」によって生じた。
「巻き戻し」とは、円キャリー資金で賄われた投資の引き揚げである。では、何に投資されていたか? 多くが証券化商品に投資されたが、それだけではない。「リーマンショックは21世紀型の金融危機だ」ということが日本でも言われた。しかしそれを指摘した人は、証券化商品のことを指して言っていた。
しかし、証券化自体は、以前から存在していた。アメリカでは、住宅ローン(「モーゲッジ」と呼ばれる)の証券化は70年代から行われており、すでに財務省証券に次ぐ規模の巨大市場を形成していた。違いは、それまでの証券化が「パススルー型」と呼ばれるものであったのに対して、複雑なリスクの切り分けが行われるようになったことだ。そして、CDOやCDSという新しい要素が絡んできた。事実、AIUが経営危機に陥ったのは、同社が多額のCDSを引き受けていたからである。
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