野党の基本的な戦略とは?
もう一つはもっと単純に、年齢や職業、子どもの有無など、有権者の特性から想像される期待を実現する方法だ。
政治家は、提供される利益を有権者の特性と結び付けた具体的なプログラムをマニフェストに盛り込んで、その特性を持った有権者の支持を狙う。利益を提供される有権者は集団ではなく個人単位だ。
また、自分たちに投票してくれた有権者だけに利益を提供するわけではないから、評価のメカニズムは必要ない。こちらは資源にアクセスできない野党の基本的な戦略となる。
1955年以来、日本政治の中心的なプレーヤーであった自民党は、前者の考え方に基づく強固なシステムを作り上げてきた。しかしそれは90年代以降徐々にほころび、2009年に自民党は、とうとう政権から離れることになる。
ほころびをもたらした要因は簡単だ。一つは社会の個人化・都市化によって強固な集団を維持するのが難しくなってきたことにある。自治会、青年会、労働組合……挙げるときりがないが、若い世代が旧来の社会集団に組み込まれにくくなったことは、実感できるだろう。
もう一つには、低成長の中で財政資源の制約が厳しくなってきたことが挙げられる。集団の期待に応えるには、多くの資源が必要だ。しかし、期待に応える古典的な手段だった公共事業や地方自治体への補助金は、小泉政権以降、大幅に削られている。見返りがなければ、集団としても、構成員に動員を呼びかける求心力に欠けてしまう。
09年の総選挙で政権についた民主党は、意欲的な「マニフェスト」を提示した。特定の有権者の集団とかかわりを持つのではなく、有権者個人との関係を築こうとしたのだ。
「コンクリートから人へ」というスローガンや、「子ども手当」に象徴される一連の政策は、そのあらわれと読める。民主党が政権を取れば、特定の集団に属していなくても、一定の利益を享受できる。そんな期待をもって投票した有権者は少なくなかっただろう。
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