「リーダーはやっぱり体力ですね」 新世代リーダー 山口絵理子 マザーハウス社長
――では、バッグとしての強み、他のメーカーにはマネできない部分は、どこにあるのでしょうか。
山口:形をコピーするのは誰にでもできますが、素材をコピーするのはすごく時間がかかります。この「ソラモヨウ」というバッグはレザーをグラデーションに染めてあります。外部のなめし工場まで巻き込まないとできない作業です。そういう人たちをやる気にさせて、今までにない素材を作っています。素材がダメだと、何を作っても良い物にはなりません。今もっとも力を入れているのは、素材の開発です。
――華やかに見える山口さんの泥臭い努力が、いちばんの差別化になっていると。
山崎:室温50度ぐらいのなめし工場に山口が1週間張り付いてずっと取り組んでいる様はまさにクレイジーです。
工場の人たちがみんなこのレザーのことを「ソラモヨウ」と呼ぶんです。彼らがコンセプトをちゃんと理解できるように伝えているし、彼らも何のために作っているかを理解しています。それはバイヤーにできる仕事ではありません。山口はベンガル語をしゃべることで、本当にこの国にコミットして物を作ろうとする覚悟を示している。そこが重要なところです。
一人の人間が経営者とデザイナーを両方やるのは非常に難しい。経営者は、リソースの制約を気にして、予算の中で作りやすい物を生産しようとします。一方、デザイナーは、生産や予算の制約を気にせずに、最高の物を作ろうとします。山口はデザイナー思考のときは徹底的にデザイナー、経営者思考のときは徹底的に経営者、そこを使い分けているところがすごい。
お店には山口がデザインしたバッグもあれば、顧客の声を徹底的に聞いて作ったバッグもあります。デザイナーであれば、同じ場所に二つの違ったコンセプトのバッグが並ぶことは嫌がるのに、山口は経営者としてそれができる。
山口:私がデザイナーとして商品を熱烈にプレゼンするので、スタッフは売れなくても一生懸命売り込んでくれます。でも経営者として適正な判断をしないと、毎シーズンは乗り越えられません。だから売れないものはバンバン切り捨てるし、絶対追加発注なんかしません。
以前、すごく熱を入れた商品を、ある日私が、「これだけしか売れてないならやめて」と言ったため、店舗のみんなは混乱してしまったことがありました。デザイナーとしてはすごくむなしくて、悲しかったですが………。
マザーハウスの7年間は本当に自己否定の繰り返しです。頑張って開拓してきた10店舗との契約を全部やめて、卸売りから直営店に切り替えていったときもそうでした。言うことを聞かない外部工場から自社工場に移ったときもそうでした。「本当にこれでいいのか」「これが最終ゴールか」と否定して次に進んでいくというプロセスです。私はそれをカルチャーにしたいと思っています。
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