山口絵理子・マザーハウス代表取締役--カワイイが変える途上国、27歳「劇場経営」の突破力【下】
そこまでリスクに立ち向かうのは、それがマザーハウスの勝利の方程式でもあるからだ。既成の大企業は逆立ちしても、内乱前夜のネパールには出てこられない。そして、リスクが大きければ大きいほど、新しい「ストーリー」が生まれる。
マザーハウスはモノとしてのバッグを売っているのではない。山口が言う。「モノがあふれる中、何が欲しいの、と言ったら、本当は、内面に働きかける何か。途上国を変えたいという思い、そして、いくつもの困難を乗り越えてバッグをお客様に届けるまでのストーリーを、私たちはバッグとともに、販売している」。
早大教授の遠藤は、このマザーハウスのスタイルを「劇場経営」と命名する。スリリングなストーリーを観衆=顧客の目の前に広げ、顧客は共鳴し巻き込まれる。共鳴の渦に押し上げられ、マザーハウスはまた一段高いステージへ。ストーリーの発信はだから、生命線だ。
山口は自叙伝『裸でも生きる』(講談社刊)を出版し、TBS「情熱大陸」に出演し、ブログを書き続ける。5月の黄金週間に直営店で開催したミニ講演会、その名も「ストーリーラリー」には、毎回、店に入り切れないほどの観衆が詰めかけた。
ずばり、工場を「劇場」化したのが、今年3月、大手旅行代理店HISと共催した1週間のバングラ・ツアーだ。ツアー参加者を前に自社工場の13人の工員が自己紹介したときのこと。1人の女子工員が感極まった。「私にとっても家族にとっても危機でした。親戚も助けてくれないとき、会社が守ってくれました」。
バングラでは、時に、想像もつかない災厄が降ってくる。反社会集団に理不尽な大金を要求され、拒否すれば、命も危険になる。山口が割って入った。相手の集団と交渉し、女子行員には給与を先払いして急場を切り抜けた。「こんなにしてもらって。死ぬまでここで働きたい」。
山口も泣き、参加者ももらい泣きした。HISの行方一正相談役が言う。「現地のスタッフに信頼されているんだな。厳しい状況の中でみんな生き生きと働いている。日本の若い人たちにこそ見てもらいたい」。
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