山口絵理子・マザーハウス代表取締役--カワイイが変える途上国、27歳「劇場経営」の突破力【下】

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下北沢の芝居小屋か、シルク・ドゥ・ソレイユか

実は、HISツアーの3カ月前、絶体絶命のピンチに直面していた。バングラの自社工場の大家が「政府の規則で営利活動はできない。1週間以内に出ていけ」と言い出したのだ。そんな規則などあるわけない。 生産が止まれば、日本の直営店も行き詰まる。副社長の山崎もバングラに招集し、臨戦態勢に突入した。

ひとまず仮工場で細々と生産を続けたが、こんな所でやっていたら、品質も何もかもが台なしになる。仮工場に移ったその日から、新たな物件を探し始め、2週間後にまた引っ越し。新工場は4倍の広さである。

山崎が言う。「山口の突破力。勝てない。壁にぶつかったら普通、考え込む。山口はぶち当たった瞬間、壁を乗り越えようとしている」。

山崎には山崎のストーリーがある。大学2年のとき、ベトナムでストリートチルドレンのビデオ・ドキュメンタリーを制作した。その山崎がゴールドマン・サックスに入社したのは、人々の運命を変えてしまう経済の本質を、金融センターのど真ん中で見極めたい、と考えたから。ただし、4年でゴールドマンを辞め、バイクでアジアを横断する、しかる後、自ら起業しよう、と決めていた。

ところが、旅の準備中に山口を手伝って圧倒された。これが、あの山口なのか。「変わった。いちばんいいところを除いて、全部」。いちばんいいところ=突破力だけはそのままに、ものすごい勢いで成長している。「本当に焦って」しまった。で、山崎は、いまだにアジアに旅立てない。

だが、突出した山口の存在は、マザーハウスの強みであり、弱みである。早大教授の遠藤は、「下北沢の芝居小屋で終わるのか、シルク・ドゥ・ソレイユになれるのか。ここが、劇場経営の分岐点」と見る。

シルク・ドゥ・ソレイユは、「太陽のサーカス」。モントリオールに本部を置き、ラスベガス、日本の東京ディズニーリゾート「ZED」など、世界4都市で九つの常設公演を展開している。サーカスを芸術の域にまで高めたパフォーマンスは、文字どおり「劇場経営」の最高峰だ。支えているのは、世界40カ国からの4000人のクリエーターたち。 

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