山口絵理子・マザーハウス代表取締役--カワイイが変える途上国、27歳「劇場経営」の突破力【上】
ロングセラーの『現場力を鍛える』や『見える化』を著し、早稲田大学大学院教授も兼ねる遠藤功(ローランド・ベルガー会長)は、「現場主義」の実践的研究における第一人者だ。その遠藤が激賞する。
「若かりし頃の本田宗一郎、松下幸之助も、あんなふうだったんじゃないか。強烈な主観、思いがある。ビジネスは、成功・失敗の前に、まず思いありき。彼女は、日本人が忘れてしまった主観力を持っている」
彼女、山口絵理子の思いは、発展途上国の社会を変えること、しかも、ビジネスを通して変えることだ。
3年前、24歳の山口はマザーテレサから社名を採った「マザーハウス」を設立し、アジアの最貧国、バングラデシュでジュート(黄麻)のバッグを作り始めた。世界に通用する“カワイイ”バッグ、“カワイイ”ブランドを、胸を張ってここバングラデシュから発信したい--。
といっても、バッグ作りの基礎知識は何もない。電話帳を頼りに飛び込みで生産委託先を探し、デザインを描き、型紙を起こし、工員と同じ作業テーブルでハサミを使う。究極の現場主義、手作りの起業である。
最初の“生産量”は160個。そこから始め、東京、福岡に直営販売店を5店展開。初年度300万円の売り上げが、今年は2億円を超える。収支は前期に黒字化した。普通なら、ホッと一息入れたいところだろう。山口は今、バングラに続く第2の生産地、ネパールにいる。
ネパールは今年5月、連立政権の崩壊以来、マオイスト(毛沢東主義者)と大統領派・国軍がにらみ合い、街に銃声が響いている。山口が言う。「バングラでも、非常事態宣言の下で作っていましたし。まぁ、こんなものかな、と。ビジネスを立ち上げた以上、銃撃戦があったので納期遅れます、なんて言えませんから」。
山口は「社会起業家」と呼ばれるようになっていた。そう呼ばれることに、うなずけない。いわゆるフェアトレードについても違和感がある。
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