山口絵理子・マザーハウス代表取締役--カワイイが変える途上国、27歳「劇場経営」の突破力【中】
ダッカで現地の大学院に入学した。2年くらい住まねば、現地はわからない。2年のビザを取得するための入学だった。が、現地の様子がわかるにつれ、フツフツ湧き上がる感情がある。「この野郎」である。
グラミンでもNGOでもなく裏切りを越える「自分」
郵便局で手紙を受け取るにも、水道局に修理を頼むにも、賄賂がいる。格差は絶望的に固定されている。親が屋台を引いていれば、子供も屋台を引くしかない。「汚いことが多すぎる。フェアじゃないだろう」。
では、ビジネスの世界は、どうなっているのか。「安かろう悪かろう」が大量生産されている。賃金は中国の何分の1。三井物産・ダッカ事務所でアルバイトをしながら思った。「安かろうを続けていたら、10年後もこれだよな。いいように使われ、先進国の都合で発注が止まったら、それでおしまい。いちばんよくないことじゃないか」。思い悩みつつ、物産の名刺を持って安物を探していた。
が、工員たちと話し込んでみると、彼女、彼らは決して現状の安物に満足していない。もっとやれる、もっといいものを作りたい--。だったら、カワイイものを作ろうよ。
「え、これがバングラ製?」という驚きを世界に発信できたら。その「イメージ転換」に、山口は夢中になった。先進国のお客様が商品を手に取り、途上国って汚いだけじゃない、とイメージを変える。発信する側も、受け手も変わる。「それって、人生を賭けてもやってみたい」。カワイイが好き、の山口の感性を介して、日本(世界)の市場とバングラの「現場」力がつながるのである。
が、当然ながら、カワイイバッグ作りは一直線には進まない。山口は「疑惑」と「裏切り」の間でもみくちゃになった。仮にR氏としておこう。
R氏は最初の160個のバッグの生産を引き受けてくれた工場主であり、「ビジネスを通じた国際貢献」という山口の思いの理解者だった。
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