オリンピックでメダルを獲得したとしても、大会主催者のIOCから賞金が出ることはなく、出場料もない(日本の場合、金メダルを獲得すれば、JOCから300万円、日本陸連から2000万円の報奨金が支給されるが、ケニアの報奨金はかなり低い)。その一方で、ロンドン、ベルリン、東京などの大型都市マラソンには、高額賞金(優勝賞金で1100万円など)だけでなく、タイムボーナス(世界記録で3000万円など)、出場料(複数年で数千万円単位の契約もある)も発生する。特にケニアの“プロランナー”たちは、世界大会の本気度が低下しており、「国の名誉」より、「ビッグマネー」への意識が強くなっているのだ。
またオリンピックや世界選手権は夏に開催されるため、気象条件がよいとはいえず、ペースメーカーもいないため、「記録」を狙うようなレースにならない。そこで、佐藤は好タイムを目指すために、どうすべきか。マラソンランナーとしての“戦略”を練ってきた。
「ニューイヤー駅伝の前から距離を踏めていれば、五輪選考レースに出ることも考えていたんです。でも、そういう状況ではありませんでした。中途半端な状態なら、出ないほうがいい。今年からは、マラソンで結果を求めていくので、そのためには、きちんと準備期間を設けて、自信を持って挑むことが大切だと考えています。前々から白水(昭興)総監督と相談していたことで、昨年の夏から、『今年の春には記録を狙いにいくぞ』という話をしていたんです」
過去3度のマラソンは“失敗”ではなく“実験”
筆者が佐藤悠基の「マラソン」に注目している理由として、これまでの華々しいキャリアがある。佐藤は3000mで8分24秒24の中学記録(当時)、1万mで28分07秒39の高校記録、5000mで13分31秒72のジュニア日本記録を樹立。箱根駅伝では3年連続で区間新を叩き出した。日本選手権でも1万mで4連覇(11~14年)を成し遂げ、一昨年は5000mも制して長距離2冠を達成。“日本長距離界のエース”として君臨してきた。
トラックや駅伝で無類の強さを発揮してきた佐藤だが、マラソンだけは結果を残していない。過去3回のマラソンは、13年の東京が2時間16分31秒、15年の東京が2時間14分15秒、同年9月のベルリンが2時間12分32秒。トラックの実績から考えると、明らかに期待外れだ。しかし、佐藤のなかでは、まずまず“順調”だったという。
「1回目のマラソンで失速していますし、外野の声はあまり気にしないようにしています。どうせ言われていることはわかっていたので(笑)。でも、自分のなかでは、過去3回のマラソンは予想の範囲内ですし、ステップは踏んでいるので、そこは納得していますよ」
過去2回の東京マラソンは、1カ月ほどのトレーニング期間で、月間走行距離は700~800kmほど。佐藤は、「距離を走らないでどんな反応が起こるのか」を意図的に試したという。昨季は故障のため連覇のかかった日本選手権を欠場したが、7~8月は月間900~1000kmを走り込み、9月のベルリンに挑戦した。
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