(第4回)企業から見た「採用したい学生像」の変遷をたどる(就職氷河期編)

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(第4回)企業から見た「採用したい学生像」の変遷をたどる(就職氷河期編)

八木政司

●就職氷河期における「採用したい人材像」

 採用環境が急激に悪化した時期に学部卒+院卒が大量に社会に送り出されるものの、受け皿となる企業はバブル崩壊の後始末で青息吐息という構図がここに現実になったのだ。

 人事部における当時の最大の課題は、社員のリストラやレイオフであり、多くの企業は大量の新卒を入社させて、現場の指導力に能力の開発を託す余裕などない。当然、自ずと即戦力として期待できる学生を見極めようとする。現場の仕事が最優先されるため、相次いでこの時期に多くの企業で「業務」としてのOB訪問が中止される事態となった。

 また、大量のDMと就職情報誌への出稿に依存していた母集団の形成方法も大きな転機を迎えた。そして、それは1997年11月にサービスを開始したリクナビの登場によって具現化されることになる。母集団の収集・管理ツールとしてのナビシステムの目的は、コストダウンと業務の効率化である。リクナビはその二つの要求に見事に応え、人事部の大歓迎を受けたのだ。

 その後、リクナビは急速に掲載社数を伸ばし、短期間でライバル会社を圧倒するメディアに成長するが、ライバル会社も黙ってはいない。リクナビの後を追いかけ、ナビの開発競争に参入した。こうして、従来のハガキと比べ学生側にとっても圧倒的に簡単・楽ちんなエントリー環境が整うことになる。

 「クリック一発で何百社だからね」。これは当時のある採用担当者の言葉である。リクナビをはじめとするナビ就活は、新たな悩みの種を人事部にもたらせることになった。ナビ就活は「業界」「志望業種」「地域」などを設定すれば、クリック一発で何百社の企業にエントリーできるため、人事部は学生の志望度をエントリーだけでは計りようがなくなったのである。

 前述したように制度的なOB訪問を復活する理由は見当たらない。
 つまり、企業にはナビエントリーによる膨大な母集団の中からどの学生を選考の場所に呼ぶか、綿密なスクリーニングをする必要が生じたのである。学生がナビで就活をスタートさせることが一般的になり、とりあえずのコストダウンは実現した。しかも、厳選採用の大前提となる大量の母集団はとりあえず集まる。後は時間・人・場所を用意して会う価値のある学生を見極めるスクリーニングだけだ。

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